たらちねの母、フィードバックの遅れ

【20170916追記:最終の一つ前の段落を追加しました。勢いで書きすぎて説明が全く足りてなかったためです】

《以下で説明するのは、知ってる人にとっては「なんで今更そんな基本的かつトリビアルなことを大事なこと風に書いてるんですか」ということでもあるんですけど。でも「ルールズ・オブ・プレイ」がわざわざ書いていて、しかも書き漏らしている以上、やっぱり大事なことだし書いておかなければいけないんじゃないかな、と。》

とりあえず、まずはお手元の「ルールズ・オブ・プレイ(上巻)」18章「サイバネティックシステムとしてのゲーム」を開いてください。この章のトピックは下記の四つとなっております。

・サイバネティックなフィードバックループ
・正のフィードバック
・負のフィードバック
・動的な難易度調整

サイバネティクスといってもここで触れているのはフィードバックループの話だけなので(最後の「動的な難易度調整」というのもフィードバックの概念を難易度調整に適用する話なので、結局同じ事です)、別にサイバネティクスじゃなくて制御工学でも全然構わないんですが(※)、それはそれとして。

負のフィードバック(ループ)というのは、同書の例をそのまま使うと、センサーで部屋の温度を拾って、設定温度と比較して、その差が無くなるような形で温風ないし冷風を吹く、で部屋の温度が変わるので、またその変わった温度をセンサーで拾って、というもので、これを繰り返していくと、基本的には、部屋の温度と設定された温度に差が無くなり、その状態が保たれるようになります。差を減らすようにするので「負の(ネガティブ)」と呼びます。逆に「正の(ポジティブ)」フィードバックだと、設定温度との差が広がるように温風なり冷風が出てくることになります(このへんでエアコンのたとえに無理がでてくる)。

ルールズ・オブ・プレイでは、プレイヤー間の差を埋めるような形でネガティブフィードバックを使い、ゲームを収束させるためにポジティブフィードバックを使う、あとは難易度調整のために色々と、くらいの話をして終わってしまうので、うんまあそれはそうよね、以上の感想を抱きづらいと思います。ですが、ここでは書いていない重要なことが一点ありまして。フィードバックループの話をするときは、必ず「遅延」の話をセットでしないといけないんです。

遅延、または遅れの話は制御工学の教科書には必ずみっちり書いてあるので、詳細はそっちを読んでもらうとして、この話の文脈で必要なぶんだけ書くとですね、まず部屋の温度が下がったのをセンサーが感知するのも一瞬とは言えず(やっぱり例に無理が…)、さらに冷風を吹いてもすぐにびたっと適温まで下がるわけじゃなくて(そうだったらループなんていらないですよね)、まあ時間がかるわけです。さらにセンサーがぽんこつだったりすると(諦めて恣意的な状況設定に変えました)、ちゃんと冷えてきたことを認識するまでに時間がかかって、おらーまだ冷えてねえぞーってんでがしがし冷風を吹き込みまくって、気がついたらなんかめっちゃ部屋寒くて、あ、やばい、温風温風、みたいな。なんかこの部屋温度が上がったり下がったりで中々ちょうど快適な温度にならないんですけど。と。もっと言うと、今は部屋の温度がエアコン以外では変わらない、という前提でしたが、実際のところは外の天気の都合で部屋の温度も当然変わりますから、夕立降ってきたんで外気温が下がってるのに冷風回ったままだから冷え過ぎちゃって、ということも当然ございます。

さて、ここまではエアコンの話でしたが、わたくしは別段いまダイキンなりキヤリアなりを称えたいわけではなくて、ゲームの話、それもマルチプレイヤーズゲームの話をしたいのです。リチャード・ガーフィールドet al.が「Characteristics of Games」でdisを加えておりますとおり、マルチゲームにはある種の本質として、トップ叩きによってみんなが横一線に並んで最後にたまたまぴょんと鼻だけ飛び出した奴が勝つ、みんな同じじゃないか、という話があります。このマルチゲームにおけるトップ叩きというのはもちろんネガティブフィードバック機構です。同書では各マルチゲームのオリジナリティについて、このトップ叩き性をどれくらいまでブレンドし、どれくらい技術の巧拙が強く出るようにするのか、という方向に話が進み、というかあまりマルチゲームに興味を持ってない感じがするんですが、マルチゲーム愛好者としては、技術の巧拙はマルチゲーム性=ネガティブフィードバック性の中には存在せず別の所から足し込んでいかないといけないんだ、という論調には賛同しません。マルチゲームにおけるプレイヤーの技量は、ネガティブフィードバック性の中にこそ存在するべきであって、また、実際にも存在します。つまり、遅れを前提とした制御の巧拙です。

各時点でトップの位置にいるプレイヤーは他プレイヤーとの差を増大させる方向でゲーム状態に働きかけるのに対して、他の全員が、その時点でのトップとの差を縮小させる方向に働きかけます。マルチゲームの定義上、力の数は1 vs N(N≧2)ですから、ゲームシステムの作りによる部分も当然あるとはいえ、基本的な構造としては、ゲーム全体としては、トップとそれ以外との差を縮小させる方向にコントロールが働くことになります。これがマルチゲームにおけるネガティブフィードバックの基本です。しかし当然ここにはセンサーの問題と冷風機の性能の問題が存在します。たとえば勝利点を稼ぐゲームにおいて、本来モニターしたい指標は「ゲーム終了時点における勝利点」ではあるものの、これは言うまでも無くゲーム中に観察できる指標ではない以上、センサーたる各プレイヤーは何らかの代替指標を使わざるを得ないわけですが、この場合に何が相応しいかというのは、これは各プレイヤーの解釈に委ねられ、しかも動的です。加えて、各プレイヤーに対して、ゲームシステムの側からは、その指標に直接働きかけることのできる冷風機は用意されていません。プレイヤー達は初期状態では怪しげなセンサーと怪しげな冷風機しか持っておらず、これは容易に発散してどうしようもなってしまうわけですが、それでもプレイヤー達はセンサーと冷風機をなんとか改善し、部屋の温度は千鳥足気味ながら設定温度にふらふら近づいていきます。

結局のところマルチプレイヤーズゲームにおいても、ゲームプレイというのはパズルプレイがそうであるのと本質的に同じ意味においてゲームを解く課程なので、それがまともなゲームである限りにおいて、確かに部屋の温度は設定温度に近づいてはいきます。しかし、これは逆に言うと、ネガティブフィードバックがきちんとかかった、部屋の温度が設定温度に張り付いた状態というのは、あくまでもそのゲームがジグソーパズルや○×ゲームのように「解かれた」最終形でしかない、ということです。解かれていない、つまり遊べる状態にある各マルチゲームにはそれぞれ固有の部屋とセンサと冷風機と外気があり、従って固有の遅延の構造を持ちます。それぞれはシステムそのもの、あるいはシステムを解釈した各プレイヤーの思惑によって設置されるものであり、つまりゲームデザイナーにとってはデザインの対象になります。そしてプレイヤーにとっては、これらはもちろん操作の対象であり、つまりは攻略の対象、そして鑑賞の対象になるわけです。


※この話がルールズ・オブ・プレイにおいて「制御工学の対象としてのゲーム」ではなく「サイバネティックシステムとしてのゲーム」と書かれているのは(おそらく)理由があります。制御工学は工学であり、あくまでも厳密に、巻き尺と秤で量った数字を微分方程式で処せるものだけを対象としているんですが、サイバネティクスや、サイバネティクスと密接な関係にあるシステム思考/システム理論の領域はそうでもなくて、上でやったように、定量的な世界のものを「系(システム)ってくくりで見れば一緒だろ」というので、会社組織とかゲームシステムとかにも平然と定性的に適用しちゃったりします。というかシステム思考というのは色んな学問分野からシステムに関する諸問題を括りだした学際領域なので必然とそうなります。あんまり無定見に濫用すると怪しげなコンサル喋りみたいになってソーカル&ブリグモンが警笛を持って寄ってきますが(ちなみに怪しげコンサルタントのバイブルとして知られる「ライト、ついてますか」と「コンサルタントの秘密」の著者ジェラルド・ワインバーグはシステム思考の代表的な教科書「一般システム思考入門」の著者でもあります)、適用可能な範囲を意識して運用する限りにおいては充分に有用だとわたくしは考えております。
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by Taiju_SAWADA | 2017-09-14 23:52 | うわごと
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