じゃんけんの行方

昔々。たしか「電撃アドベンチャーズ」という雑誌に、ゲームデザイナーの清松みゆきさんだったと思うのですが、誰かが「じゃんけんは最適解(グー・チョキ・パーをそれぞれ等確率で出すのが最適)がすぐわかるのでゲームとしては駄目だ」というような内容のことを書かれていました。書かれていたはずです。書かれていたような気がします。ちょっと自信ない。雑誌名と著者名はともかく昔々そのような内容の記事があってそれを読んだのは確かなので話を続けます。話と言うのはなにかといえば、つまりこれってほんとにほんとなのか。

このグーチョキパー各三分の一、というのは「(ゲーム理論における)混合戦略ナッシュ均衡解」なる解概念を用いたときの解です。そもそもの問題として、この概念は確かにゲーム理論ワールドの中の話としてはたいへんベーシックなものではあるものの、だいたいゲーム理論自体が電撃アドベンチャーズ誌上(って決め付けてますが)で注釈無しに使って「だれでもすぐわかる」と言い切れるようなメジャーなものではないように思うのですが、とりあえずそれは関係ないんで脇に置きましょう。

ここで触れたい問題は二つあります。まず先に簡単なほうの問題ですが、「三分の一ずつ」という確率論をここで急に持ち出したところで、その「三分の一」ってどうやってつくるのよ、という実用性に関する疑問があります。常日頃からポケットにサイコロを忍ばせてじゃんけんが発生するたびにいったん後ろ向いてしゃがんで誰にも覗かれないようにしてサイコロ振るのか、と。それともポケットコンピュータを忍ばせてじゃんけんが発生するたびにメルセンヌツイスター、ってしつこいですか。そりゃ数学的にはそれでいいかもしれないけど一回きりの問題で確率とか言われても無粋だよねえ、という気分もあります。

そしてもう一つ、簡単じゃないほうの問題。ナッシュ均衡解ってそんなに信用できるもんなの?

つまりね、相手が延々とパーを出しているときに、こっちとしてはそれを無視して「三分の一」(というのを簡単に作り出せる確率発生器を持ってるという仮定の上ですけど)を続けることができるのか、ということなのですよ。ナッシュ均衡解というのは、「相手が三分の一で来るみたいだから、こっちも三分の一でまあ問題ないよね」ということを互いに思っている(のでお互いに延々と三分の一をやり続ける)という状態ですから、相手がパーを出し続けるという手を使ってきているんであれば、敢えて三分の一を続けるよりもよっぽど良いやり方(要はチョキを出すことですね)があるわけです。

ここでポイントになることのひとつめ。相手が三分の一で来てるってなんで解るのか。一回きりとか三回勝負とかのじゃんけんで、何を根拠に「相手が三分の一で来てるみたい」とか言えるんですか?

んで二つ目のポイントは、三分の一って別に誰に対しても必ず勝てるキングオブキングスでは全然なくて、単にイーブンに持ち込めるだけだ、ということです。一応負けないのは事実だから(事実なんです)先ほどのナッシュ均衡とかいうものに当てはまってはいますが、イーブンはもちろん勝ちではない。三分の一をやってるかぎり、永遠にじゃんけんには勝てません。

でもって最後のポイント。いままで書いてきたようなことを相手がまともに考えてるって保証はどこにあるのか。相手がゲーム理論っぽい考え方を知ってて、その考え方に同意していて、もちろん混合戦略の実用性も認めていて、まともな乱数発生器を持っていて、こっちもそれは一緒で、あっちもそのことはわかっていて、こっちもそのことはわかっていて、あっちも「こっちもそのことはわかってい」ることはわかっていて、以下略、ってとこまで言えないと、この話はそもそも成り立ちません。相手が「そんなこと知ったこっちゃない」という態度を取った時点で終わりというだけならまだしも、こっちが「相手が『そんなこと知ったこっちゃない』という態度を取るかも」と思った時点で終わりなわけで、これではあまりにもフラジャイルではありますまいか。

何が言いたいのかというと、じゃんけんに面白みがあるとすればこの部分じゃないかということです。この部分というのはつまり解の不安定性で、一応両方が三分の一を出し続ければそれでおしまいということは解っているにもかかわらず、その膠着状態はどっちかが息を吹きかけただけで・どっちかに息を吹きかけられたような気がしただけで、思い切り崩れてしまう。しかし崩れてしまえばやりたい放題かといえば、そこには崩れ落ちたとはいえ三分の一の枠がいることはいるわけで、こいつを横目で見ながら今バランスはどんな感じかなー、これからどうしようかなー、と考える、そして考えることそのものがバランスを振らせる原因になる。ですからじゃんけんというのは、三分の一が解析のゴールなのではなくて、三分の一をスタートにしてバランスのぶれを楽しむゲームである筈なのです。


いや、正直じゃんけんが面白いかと言われると困っちゃいますけど。
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by Taiju_SAWADA | 2005-12-13 01:06 | うわごと
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