ゲームマーケットに「くいずです」というゲームを出す、というようなことが B2FGames のサイトに出ているんですが、逆に言うとそれしか情報がないので何のゲームだかわかりません。ということでどんなゲームなのか作者による解説を試みたいのですが、問題はというとこのゲーム、えらく説明が難しいのですね。「要するにこういうゲームです」という切り出しがなかなかできない。
仕方がないので、説明と言えるかどうかはわかりませんが、このゲームがどういう風にできていったのか、順を追って書いていきたいと思います。宣伝文はきっとB2FGamesのだれかが書いてくれるでしょう。きっと。たぶん。おそらく。 そもそもの始まりは何だったかというと。「クイズ番組でよくあるような『最終問題は一発逆転のウルトラチャンス! 正解者には65000点が授与されます』みたいなゲームが欲しい」という話を貰ったのが出発点だったはずです。 ただクイズ番組でそういう演出が許されるのはあれがショーだからであって、普通にゲームでそれを持ってきても、じゃあ前半は何だったんだよみたいなことになってしまいます。前半に意味があって、かつ後半の65000点にも(もちろん)意味があるようでないといけない。 いくつかの解法が考えられます。例えば一つの方法として、得点と難易度をリンクさせてしまう。前半の10点を獲得するのは容易だけれども、最後の65000点はそうそう獲れないようにしておく。普通の方法ですね。難易度を比例で作ってしまうと65000点なんて実質だれも獲れないということになってしまってそれはそれで意味がなくなるので、ある程度はチャンスがあるくらいのバランスにしておかないとまずいわけですが。 これとは別に、一つの演出として考えられるのは、前半の10点や20点というのは単にフレーバーであってゲーム上の意味は持たない、と言い切ってしまうというやりかたです。無論、前半のプレー自体に意味が無いのはあまりよろしくないので、表面上の10点や20点とは全く別の所で、65000点の為の準備が進行している(10点や20点は、その準備の副産物としてうっかり獲得「してしまう」)という形を作る。 あるいは、10点や20点が、65000点獲得のための資源というか元手として必要である、という作り方もできるでしょう。この場合、前半は65000点のための準備である、というのはさっきと一緒ですが、10点や20点は準備の過程で生まれた副産物ではなく、行った準備の結果そのもの、ということになります。 いま3つ例を挙げましたが、これはそのまま「くいずです」を作るときに思いついたことを時系列順に並べたものです。まず「最初は簡単、順を追って難しく」というコンセプトで骨格の設計を行い、これをゲームとして形作っていく際に「前半で得点するのは簡単だけどあまり意味はなく、最終ラウンドでの得点こそが難しいけれども肝要である。むしろ、序盤での得点については、だれもが他人に押しつけ合うようにしよう」という形に変化し、そのあとテストプレーにおいて「それはあまりにも前半で得点『してしまった』ひとが可哀想なので、前半の得点は最終ラウンド獲得のための資源として使えるようにしよう」という意見が採用されました。要は「くいずです」では、前者の二つの要素も強く残しつつ、最後の一つが主に解法として使われているということです。 (なんで前二つの要素が強く残っているかというと、最後の要素だけでゲームを作ってしまうと、結局前半で得点を稼いだプレイヤーが最終ラウンドも持って行ってしまって、いまひとつ当初やりたかった「大逆転の演出」として効かなくなってしまうからです) さて。ここまではあくまで「最終ラウンド65000点」というコンセプトをどう扱うか、というだけの問題でした。当然ながら、その取り扱い方法が決まったところで、それ自体はゲームではありません。どのようなメカニズムの中でこのコンセプトを実現するかという実装の話に触れていません。 実装について一番最初に考えたのは、「ウルトラちゃーんす!」というのはクイズ番組から持ってきた演出なんだから、ゲーム自体もクイズゲームとして作るべきだ、ということでした。しかしながらこれは、コンセプトに上手く合うようなルール設計を思いつかなかったことと、何よりも致命的な問題として、クイズを何千問も作れそうな人間が誰も周りにいないということがあり、そのまま流れていってしまいました。 それでも、クイズ番組から持ってきた演出なんだからゲーム全体もクイズ番組風に演出したい、という思いは残っており、「何千問も用意しなくていいクイズネタ」として、記憶ゲームをクイズの代わりに使おう、というのを思いつきました(この時、昔やってた「天才!ヒポカンパス」という記憶クイズ番組のことが頭にあったのですが、だれかこの番組のことをまだ憶えている方はいらっしゃるのでしょうか)。 で、記憶ゲームということで考えてみると、例えばゲームの最初に全部の要素を記憶しておいて後から一問一問出題することにすれば、序盤の問題はまだ記憶がそれなりにあるから簡単で、終盤になると記憶がだんだんと曖昧になっていくので難しくなる、ちょうどいいじゃないですか、ところで記憶って何を憶えるんですか、そりゃクイズ番組風に演出するんだからクイズの問題とその正解を憶えればいいんじゃないかしら、それってクイズ番組はクイズ番組でもロバートレッドフォードの「クイズ・ショウ」(※)じゃないでしょうか、だいたい問題とか正解とか誰が作るのよ、いいんだよクイズゲームじゃないんだから文章と単語が書いてあれば何だって、というように、いろんなことが次々と決まっていったのであります。(ところで「いいんだよ文章と単語が書いてあれば何だって」というので、実際この部分はかなり好き放題やってしまい、結果として見た目がすっかり馬鹿なゲームになってしまっているんですが、このあたりは実物をご覧いただきたく思います。) (※)やらせクイズ番組の内幕を描いた映画らしいが未見。 コンセプトは決まった実装の大枠も決まった、後はこの二つの擦り合わせだ、ということになります。これはしかし、記憶でいこう、と決めた段階でほとんど葛藤無くあっさり作れました。 まず第一に、記憶すべき要素を全員が全部憶えてしまっていては最終問題の難易度もへったくれもないので、全てを記憶するのはちょっと無理だろうというような量を問題として出しておいて、各プレイヤーが「この問題なら憶えてるけどこっちはちょっと駄目」というような状態になるようにします。当然プレイヤーによってどの問題を憶えているかというのは違ってきます。でもって全員、自分が憶えている問題が最終問題に来るようにしたいと。これがゲーム前半で行われるさや当ての内容となるわけですが、じゃあこの部分をどうゲームかするかというと、そういえば前段で出てきたとおり、このゲームは「クイズ・ショウ」なようなので、いかさま合戦だったり袖の下合戦だったりそういう風にしていけばいいじゃない、そしてそんなことにかまけてる間にせっかく憶えていた答を忘れてうろたえればいいじゃない、とこちらもあっさり決まってしまいました。 (この部分の制作に手間取らなかったのは、記憶とゲームプレーのせめぎ合い、つまりゲームを本格的にプレーしてると記憶がおろそかになって抜けていく、ということがかねてから気にかかっており、これを使ってなにかゲームができないか、と考えていたからでもあります) ここまで決まればあとは細部を詰めるだけ。結果、袖の下を渡して出題を弄るという部分は変形オークション風に作られることになり、オークションだというので資金という概念が生まれます。さらに、自分の憶えている問題が無くなってしまうとゲームから脱落というのは問題だというので、カンニングして問題を憶え直すようなこともできるようにしようということになり、結果として各問題につき「普通に解答するか・解答せずに資金調達に走るか・カンニングを行うか」の三択によるバッティングゲームが最終的にできあがりました。 でもまあ、実際にできあがってきたゲームは「どうみてもジョークゲーム」なんですけども。不思議なことです。
by Taiju_SAWADA
| 2007-03-22 03:04
| 創作関連
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