いまMac Gerdtsのゲームの和訳をやってて、ということはこんなとこで余計なおしゃべりをしてると各方面からそれはもう偉い勢いで怒られたりするのですが(このサイトの更新が全くないのは和訳ばっかやってるからですごめんなさい)、無論Gerdtsはまあ控えめに表現しても天才としか言い様の無い素晴らしいデザイナーなわけですけど、ひとつだけどうしても気に入らない点があって。彼、自分のゲームの序文に「strategy game without luck of dice or cards」って書くんですよね…それも誇らしげに。
大事なことなので何度でも言いますが、マルチプレイヤーズゲームにおいて「no luck」というのは性質の悪いフィクションでしかありません。これは2人用ゲームやn人ソロゲームとマルチプレイヤーズゲームを分ける最大のポイントで、「no luck」、すべてはテメエ次第。というのは2人ゲーム(およびn人ソロゲーム)のための言葉です。そしてマルチプレイヤーズゲームはこの言葉の否定から始まります。テメエがどんだけ喚いてもどうにもならない、第三者という名前の領域が必ず存在する。これはほとんど定義かトートロジーかというほどのもので、マルチプレイヤーズゲームを遊ぶということは、そのことを否応無く引き受けなければいけないということでもあります。否定したところで嘘にしかなりません。 いや、ただの嘘なら別にいいんですけど。嘘は必ずしも性質が悪いわけではないし、フィクションだということでもありません。問題は、マルチプレイヤーズゲーム、それもしばしばゲーマーズゲームにおける「no luck」という言葉は、2人用ゲームにおける「no luck」の含意を悪用しているということです。2人用ゲームにおいて、この言葉は「紛れの一切無い、ピュアに貴方の頭脳を試す勝負である」というストイックな競争(カイヨワがお好きなら、「アゴーン」とルビを振って頂いても構いません)の宣言を意味します。ブラフも揺さぶりもなく、あくまでデシジョン・ツリーを先まで見渡すだけ、本質的には勝負の対象としての相手もいないものとみなすことさえできる、要は自分がどこまでの高みに達したかを測定するための装置。いや、実際のところトップランクの棋士の発言なんかを見るとそこで起きてるのは全然そういうことではないみたいなんですが(むしろ彼らの言葉はマルチプレーでも同様に適用できるものであることが多いです)、原理としてはそう言える。 で、このストイシズムをマルチプレイヤーズゲームに持ち込むために、「no luck」という言葉が使われていると。luckのあるゲームは紛れのある・貴方の頭脳を試すに値しない低級なゲームであり、no luckなこのゲームは紛れの無い・貴方の頭脳を試すに値する本物の測定装置である、というね。あのー、困る訳ですよ、勝手に一人で頭脳を試されたり高みに立たれたりしても。置いてかれた四人で目配せして袋叩きにしちゃうと後で恨まれそうだし。このフィクションはそういう変な誤解をプレイヤーに与える可能性がひっじょーに高く、何と言うか青少年の教育上いろいろとよろしくありません。 どこまで行ってもマルチプレイヤーズゲームは貴方の頭脳に挑戦するピュアな測定装置ではありません。それこそ「あいつ袋叩きにしちゃおか」がいつでも成立する、下賤で野蛮で猥雑な何かでしかありません。Gerdtsの"Antike"にしても同じことで、「no luck」だってんで喜んでどれだけ先を見たところで、隣の蛮族がわけのわかんない理由で殴り掛かってきたらそれで終わりです。だからこそ、変なフィクションに引っ張られて内実の伴わない自意識を振り回すのは止めにして(2人用ゲームでなら大いにやれば良いと思います。そこには確かに内実がありますから)、仕組まれた野蛮、必要に応じてluckもdiceもcardもふんだんに突っ込んで組み上げられた猥雑の猥雑ぶりを、にやにや一緒に舐め回せばええじゃないか。わたくしはそう思うのですが。
by Taiju_SAWADA
| 2009-12-17 01:38
| うわごと
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