日本でアバロンヒルのゲームが店に並んだのはいつからかしら:中間報告(追記あり)

(追記: 20161223)

このサイトは主としてドイツゲーム以降のファミリーストラテジーボードゲームを追いかけるサイトなのですが、このファミリーストラテジーには源流がいくつかあって、そのうちの一つとして、アバロンヒル社が始めたボード・ウォーゲームがあります。どのような意味で源流になっているかというと、商業的に次々と出版されるゲームを取っ替え引っ替え遊んではゲーム自体を鑑賞するホビー、としてのゲーム趣味、あるいはホビイストとしてのゲーマーというのは、ここに起源を求めることができるわけです。

そういえば、以前moon Gamerで「レイメイ期のウォーゲーム (http://moon.livedoor.biz/archives/52401074.html )」という記事がありました。大雑把に要約すると「1972年に、ホビージャパン誌界隈を中心として、プラモデル等を用いたミニチュア・ウォーゲームのブームがあった」という内容です。そこでは(日本においても)ミニチュア・ウォーゲームの受容がボード・ウォーゲームの受容よりも先行していたことが示唆されているわけですが、そうすると気になるのが、それでは日本にボード・ウォーゲームが入ってきたのはいつ頃だったのか、という点です。

実のところ、単に「入ってきた」=日本国内にボード・ウォーゲームが存在していた、というだけでよければ、既に1960年代に存在していたことは周知の事実になっています。というのは、今でも続いている著名なボード・ウォーゲーム雑誌である「Strategy & Tactics」は、60年代、日本在住のアメリカ人(確か米軍関連の人だったはず)が編集していた時期があるんですね(※)。とはいえ今回の話は「日本における受容」の文脈での話ですから、これをもって「入ってきた」とは言えないでしょう。こちらの主要な関心は、いつ誰が日本で初めて商業的にボード・ウォーゲームを売り出したか、という点にあります。

(※【追記】 @alpharalpha_jjさんが、上記の点について「S&Tは67年1月に、東京で勤務していた米空軍のクリス・ワグナー軍曹が創刊した」と、証跡付きで正確な情報をコメントされています。 https://twitter.com/alpharalpha_jj/status/809429789694005248 および https://twitter.com/alpharalpha_jj/status/809434782534758401 )

諸々の雑誌等で見る限り、70年代当時の主要なプレイヤーとしては以下の出版社やショップがあったようです。
・ホビージャパン (お馴染みの例の会社。アバロンヒル社のゲームを輸入していました)
・モデルエース (久が原にあったホビーショップ)
・木屋通商 (輸入商社で、アバロンヒル社のゲームを輸入していました。後に、同社のコンピューターゲームの販売を手がけるようになります)
・タイムマイザー (輸入商社【※次の追記を参照】。「ホビーネットワーク」のブランド名で、ミニチュア・ウォーゲームのルール販売やボード・ウォーゲームの輸入を実施)
・えんどう (笹塚のホビーショップ【※次の追記を参照】。現在は通販専門店「ホビーセンターえんどう」。SPI社のゲームの輸入販売等を行ってた模様)
・キディランド (原宿と梅田に旗艦店のある玩具チェーン店。一時期は「日本で一番ウォーゲームを売る店」だったとのこと)

(※【追記】実際にタイムマイザーにいらしたという @hyuga55032216 さんから、タイムマイザーはホビーセンターえんどうの社長が設立した会社である、とコメントをいただきました。他に「ミニチュアゲームのUさん、カデーに属していたTさん、インディアンオーシャンアドベンチャーを訳されたAさん後にコマンドマガジンの編集長」が所属されていたとのこと。 https://twitter.com/hyuga55032216/status/809593740662685696 タイムマイザーは、後にツクダホビーからゲームを出版する岡田厚利さんも所属されていたゲームクラブ"Atelier"のデザインによるミニチュアウォーゲームルールブックを販売したりもしています)

(【追記】また、後藤信二さんから、積極的にシミュレーションゲームを取り扱っていたショップとして、他に蒲田「ベンケイ社」がある、とコメントをいただいています。「モデルエース、エンドウ、ベンケイは、同人系のゲームも扱っていて、そういうの作ってた人たちがバンダイやツクダのデザイナーになりました」とのこと。 https://twitter.com/gto246/status/809560537012965376

これらのプレイヤーのうち、タイムマイザーと木屋通商については、ほとんど何の情報もありません。えんどうについても何の情報もありませんが、こちらはまだ店が通販専門店として現存しているので、伺ってみるという選択肢は取れそうです。一方、最も簡単に情報が手に入るのは言うまでもなくホビージャパンで、何せ毎月雑誌を出していて、国会図書館に納められています。田村寛さんの調査によれば (http://legalalien.sakura.ne.jp/wiki/index.php?卓上ウォーゲーム/「ホビージャパン」卓上ウォーゲーム記事一覧 )、ホビージャパンがアバロンヒル社(以下AH)のゲームの輸入販売を予告する広告を初めて出したのが「ホビージャパン」誌の75年4月号です。わたくしもヤフオクで買って確かめたところ、確かに1頁使って「6月全国一斉発刊予定」と書いてあります(取扱タイトルはTactics II、Gettysburg、KRIEGSPIEL、D-DAY, PanzerBlitzなど)。ということで、ホビージャパンについてはこれでよいでしょう。

次に情報が手に入りやすいのはモデルエースなんですが…。まずは「シミュレイター」誌2号(83年1月)に掲載されている、モデルエース店長である矢木沼佐一郎さんのインタビューを見てみましょう。

10年くらい前かな、東京のキディランドで天井からぶら下がっているAH社の『ドイツ・アフリカ軍団』が目に入って、「うん、これは面白そうだ」と感じたのです。
その時はそれっきりだったのですが、それと時を同じくして、経済関係専門誌にAH社のゲームが、ビジネス新入社員育成教育用として紹介されているのを知りました。それですぐにその輸入商社に出掛けていったのですが、(中略)そのゲームの中からいわゆるウォーゲームといわれるものの3店『フランス1940』『クライグシュピーゲル(※原文ママ)』『パンツァーブリッツ』をほんのすこし見本仕入したわけです。ですから、おそらくこれが模型店の店頭にならんだ日本で最初のウォーゲームのはずです。
以後、AH社の内のウォーゲーム関係を主体に扱う代理店、ホビージャパン等があらわれ、流通機構がスムーズになったので、「ホビージャパン」1972年6月号に初めてウォーゲームの広告をのせたわけです。


というわけで、モデルエースがAHのゲームを扱い始めたのは1972年6月です。という風にはいかない事情があってですね。というのは、ヤフオクには出てなかったんで国会図書館行ってホビージャパン72年6月号を確認したんですが、モデルエースの広告、どこにも載ってないんです。ヤフオクで買えた中では、74年9月号にモデルエースの広告は載っていますが、ゲームの広告ではありません。ゲームの広告が載っているのは74年11月号(10月号は売ってなかったです。もしかしたら10月号にもあるかも)。その広告の文面は以下のようになってます。

アバロンヒルゲームは極めて高度な知識と頭脳を要するゲームです。その高度なプレーにより、戦略的訓練を培うために、アメリカのウェストポイント士官学校でも実際に使われていたり、アメリカ各地の軍人クラブでも広く利用されています。なおゲーム説明は英文です。
(A Bは日本語説明書を作る予定)


引用文中のAはパンツァーブリッツ、Bはフランス1940です。もうひとつCというのが広告に載っててこれがKRIEGSPIEL(広告では「クリーグスピェール」)。広告ではこのCのクリークシュピールが入門用という扱いになってるんですが、入門用のゲームには日本語説明書を作らないというのはどういう目論見なんでしょうか。いずれにせよこの段階ではまだ日本語訳がなかったわけですね。翌年75年1月号の広告になると、和訳ルールが販売されていることが確認できます。

74年11月号で注目すべきことはもう一つあります。モデルエース以外にも、ウォーゲームの広告を載せている店が2つあるんです。ひとつはマルケイ(千葉のホビーショップ)で、取り扱いゲームは「KRIEGSPIEL」「PanzerBlitz」「France 1940」。和訳なし。そしてもうひとつがポストホビー。言うまでもなくホビージャパン社の店です。そして取り扱いゲームが…「KRIEGSPIEL」「PanzerBlitz」「France 1940」。一緒じゃん! 更に言うと、この2つのどちらも、74年9月号の段階では、広告の中でアバロンヒルの話は一切していません。つまりまあ、先ほどのインタビューの内容と突き合わせて考えると、みんな同じ商社から仕入れていたんじゃないか、と考えられるわけです。この商社の名前がわかればいいんですが(それが木屋通商だったりタイムマイザーだったりしたら面白いんですが)、残念ながら記載はなく、手がかりは「経済関係専門誌に記事が載ってた」ということだけです。アバロンヒルの当時のゲームで新人社員研修に使えそうなゲームというと、おそらく「Business Strategy」(1973)と思われるので、73年か74年(タイミングから考えるとおそらく74年)の記事ではないかと思われます。これについては後で調査して、奇跡的に何か解ったら報告します。

そして最後にキディランド。キディランドについては、以前ボードゲーム読書会で高梨俊一さん(バンダイ「スペースコブラ」、アドテクノス「レッドサン・ブラッククロス」等の作者【後者は共作】で、パラノイアの校閲をお願いしています)にインタビューした際(私信:すみません今年中にテープ起こしします)、「1974年の早い時期にキディランドでウォーゲームが並んでいた。1973年のクリスマスシーズンからの取り扱いではないか」とコメントされていて、たしかに前述のモデルエース店長の発言とも整合します。

なお、高梨さんは74年の春にパンツァーブリッツ、夏にKRIEGSPIELをおそらくポストホビーで【高梨さんから訂正:キディランドでとのこと】購入していて、秋に【同年末か翌年初にポストホビーで「ルフトバッフェ」を購入し、】「他のゲームは無いか」とポストホビーの人【ちなみに錦糸町店とのこと】に尋ねたところ、モデルエースを紹介され、【75年に行ってみると】そこにはSPIの作品が各作品1部ずつ並んでいた、とも仰っています(更に、このSPIの作品を仕入れさせたのは、「当時イエナ書店でミリタリ関連書を扱っていた(※)」井出隆弥さんだった、とも【仕入れさせたというよりは委託というか持ち込み販売的なものだったようですが、契約上の構造は不明】)。雑誌に載せられるほど量を仕入れられるのは前述3作品だけとしても、店頭で1部ずつサンプル的に入れて売る、というのは個々にやっていたものと思われます。あるいは前述3作品にしても、パイロット的に店舗で数ヶ月扱ってから雑誌に広告を出した可能性が高いですが。

(※追記。前掲moon Gamerの記事では、「新宿でミリタリーフィギュアや軍事関係の書籍を販売するショップを経営なさっていた」と紹介されています。このショップは「日本史料研究会」で、70年代後半のホビージャパン誌に広告を出しています。日本史史料研究会とは無関係ではないかと思われます。DOBUROKU-TAOさんによる記事[http://bonkura-otaku-life.seesaa.net/s/article/390863511.html]を見ると、井出さんが1971年の時点で日本史料研究会に在籍していたことはほぼ間違いなく、一方で井出さんがイエナで仕事をされていたという証言も複数あります。移籍されたのか委託業務として行われていたのか…※※)

(※※【さらに追記】先ほどの @hyuga55032216 からこの件についてもコメントをいただきました。おそらく、イエナで勤務していた井出さんは並行してサークル「日本史料研究会」を主宰していて、この日本史料研究会が、1975年頃にモデルエース店舗を部分的に間借りする形でSPIのS&T誌50号[Battle For Germany]等を販売開始、その後70年代後半に西新宿でショップを開店、という流れと思われます。ショップ開店後イエナとの関係がどうなったのかはまだわかりません)

なお、この件について、キディランドに問い合わせを行ってみました。梅田店にいた方のご記憶だと76年頃から並べだしたとのことでしたが、これは梅田店での取扱が始まった時期であるものと思われます。当時のキディランドはアメリカやヨーロッパに直で買い付けに行っていたようで、またミリタリー物のプラモデル等も豊富に取り扱っていたとのことなので(72年夏にホビージャパンが主催したミニチュア・ウォーゲームのデモンストレーション会は、キディランドで行われています)、バイヤーが買い付けに行った先のアメリカで、興隆するAH社ウォーゲームを見て仕入れてみた、ということなんじゃないのかな、と推測しています。(これも高梨さんによれば、当時の原宿キディランドは1フロアが輸入玩具専用フロアで、その更に上のフロアにAHのゲームのコーナーがあった、とのこと)

ということで、以上中間報告でございました。木屋通商とかタイムマイザーとかどうやったら情報拾えるんでしょーか。

※ぜんぜん関係ない余談ですが、ボードウォーゲームの専門誌というのが80年代前半にいくつか出ておりまして、代表的なものが「タクテクス(ホビージャパン)」「シミュレイター(レックカンパニー→翔企画)」「オペレーション(ツクダホビー)」の3つです。これらのうち、本としての作りがしっかりしているのはタクテクスですが、当時の雰囲気を知る資料として役に立つのは(レックカンパニー時代の)シミュレイターですね。普通は活字化されると人格が漂白されるものですが、初期シミュレイターには漂白前の面倒なプレイヤー達の面倒な言説がそのまま載っています。

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# by Taiju_SAWADA | 2016-12-16 00:34 | 雑題

ユール「ハーフリアル」邦訳書の発売に寄せて

イェスパー・ユール「ハーフリアル ―虚実のあいだのビデオゲーム」が、ニューゲームズオーダー社から9月末に発売されます(PDF版は先行で発売済)。わたくしはこの翻訳本の企画者として諸々の作業に関わっておりまして、なんでこの本の翻訳を企画したのか、ということについて少し書かせていただきたいと思います。

以前「捏造ドイツボードゲーム現代史」というプレゼンを行った時にも触れたのですが、そもそもわたくしには個人的に、ゲームについて喋りたいという願望があります。現にゲームというものは存在していて、更に言えば面白いゲームと詰まらないゲームが存在していて、面白いゲームには面白いゲームにおける、詰まらないゲームには詰まらないゲームにおける、なにがしかの傾向もある。そうであるのにもかかわらず、喋るための十分な言葉は用意されていません。日本語www界隈には「小学生並の感想」というスラングがありますが、ゲームについて喋る時には小学生並の語彙しか存在しないので、小学生並の感想ではない事を喋ろうと思ったら、毎回自分で言葉を一から作り上げていかないといけないわけです。もちろん、中学生以上の語彙が用意されている他分野から言葉を借りてくることはできますが、その場合には、借りた言葉がなぜ適用可能かということについて、根拠の説明を毎回自分で行わなければいけません。

ボードゲームの場合はビデオゲームと比べてさらなる困難があり、我々には言葉が無いだけでなく個々の作品を位置づけるための歴史もまともに存在しないのですが、それについては「捏造ドイツボードゲーム現代史」で既に喋ったので置いておくとして、今回は言葉の話です。先ほどは小学生並の語彙しか存在しないと書きましたが、実際のところ現代においては、「あるものがビデオゲームであるとはどういうことなのか。どういう場合にビデオゲームは楽しいものになるのか。ゲームのルールはどのような仕方で機能するのか、またルールはどのようにしてプレイヤーに楽しみを与えるのか。どのようにして、そしてなぜ、プレイヤーはゲームの世界を想像するのか」という動機に基いて、ゲームについて調べ、よその分野から調達した語彙をゲーム用に調整し、また自らも概念を考え出して、とゲームについて考えるための様々なパーツを生産する仕事に従事する「ゲーム研究者」と呼ばれる人々が何人も存在しています。

そして実際にゲーム研究者の方々の仕事は、我々のごとき普通にゲームを考えたい人々が手頃に使用できそうな成果が生まれる程度まで進んでいます。進んでいるんですが、ここで問題になるのが例のバベルの塔です。突然ですがここである一人のついったー民の荒れた呟きをご覧ください。

「ジェスパージュール(※)の主著も未訳だしサットンスミスも軒並み未訳。ジュールは最近の人だから仕方ないがサットンスミスの未訳って絶望的なんじゃないか。ルールズオブプレイの和訳は奇跡と言えるかもしれない」
「Sutton-Smithすら邦訳のない日本のゲーム屋まじで仕事放棄しすぎだと思うんですけど」
「同人ボードゲーム製作をここ数年止めてるのは優先度の都合です。あのゲームも未訳、ジェスパージュールもサットンスミスも未訳、純草場オーラルヒストリーも手付かず(これはいたるさんがやってくれるらしい)、増川宏一も松田道弘も安田均も手付かず(SNEの誰かやってよ)、でゲーム自作ってもねえ」
(※イェスパー・ユールの英語読み)

誰も! 翻訳を出さないから! 英語で読むしか無い! いや読むけど、読むけど! 俺が欲しいのは「俺が手頃に使用できそうな成果」なんであって!

ただわたくしも、このウェブサイト始めたころと違っていい加減おっさんになったので(何せ十五年経ってます)、こういうのは待ってても誰も何もしないものなのだ、ということは解っています。現状の出版状況と一般的な出版社の社員さんのコストを考えれば、普通の商業出版社が出して費用を回収できる可能性はあまり高くないですし。また現在の研究者ワールドにおいて翻訳は直接には業績ポイントにはならない上にゲーム研究だと学術的な出版補助のゲットも厳しそうなんで、学術出版社から出てくることもあまり期待できないですし。上の荒れたツイートとして書いた通り、本来ならゲーム業界が責務として翻訳を出すべきだとは思いますが…まあ現状を鑑みれば妄想以上のものではないですよねそれは。

そういうわけで、自分でやることにしました。

先ほど引用した「あるものがビデオゲームであるとはどういうことなのか。どういう場合にビデオゲームは楽しいものになるのか。ゲームのルールはどのような仕方で機能するのか、またルールはどのようにしてプレイヤーに楽しみを与えるのか。どのようにして、そしてなぜ、プレイヤーはゲームの世界を想像するのか」というのはこのユールの本の冒頭に書かれた文で、この通りの内容になっています。加えて、ビデオゲーム「ではない」古典的なゲームの定義に関する議論と、それを踏まえてビデオゲームがどの点においてユニークなのか、という議論が含まれており、ボードゲームプレイヤーにとっては、展開されるビデオゲームの議論から、ではボードゲーム(古典的なゲーム)というのはどのようなものなのか、ということが逆に照らし出されるようにもなっています。ゲームについて考える・喋るための語彙をつくるベース、という目的において、内容の面でも語り口の簡潔なわかりやすさという意味でも、最も相応しい本のひとつと言えるはずです。無論その語彙は、ゲームを作る上でも大いに必要になるものでしょう(それが「定義を壊すために定義を知っておく必要がある」という使い方なのだとしても)。わたくしはいつでも読みたいときに日本語で読めるようになって大変満足していますので、皆さんも読んで満足していただきたいと思います。



【外部リンク】

読みやすい本ですが学術書である以上は学術的なものとして使える翻訳にしたいということで、翻訳はゲーム研究者の松永伸司さんにお願いしています。原文がそうであるように、誰でも問題なく読めるわかりやすさと学術書としての緻密さが両立された訳文になっています。本のより詳細な内容については、松永さんが紹介を書かれているのでそちらをご覧いただければと思います(http://9bit.99ing.net/Entry/25/)。

また、ボードゲームプレイヤーが読むイェスパー・ユールということで、草場純さんによる読解の録音が「ボードゲーム読書会@高田馬場」で公開されています(http://www.boardgamereaders.com/books/half-real 、現在は4章まで。9月末に最終章まで公開する予定です)。

加えて、購入する前にサンプルを見たいという方のために、ニューゲームズオーダー社のウェブサイトで1章のPDFがダウンロードできるようになっています(http://www.newgamesorder.jp/games/half-real)。
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# by Taiju_SAWADA | 2016-09-20 00:20 | 感想・紹介

文化的資産として保存し、広く利用に供することに関する二題、或いは同人誌納本と小出版についてのメモ

今回ボードゲームのことは殆ど…現状では…関係ありません。本当は「関係ある!」って声高に主張したいですし、関係あるようにもしていきたいのでここで書くのですが、とりあえずはボードゲームではなく文書に関する話です。

【この文書はスタブです。あとから色々追加する可能性があります】


* 1 *

別にWebでなんか書いてればよくて、それ以上のことは要らないんじゃないか、というのはそうなんですが、ただWebに書いた文章というのは宿命的に消えていくわけです。いやほんとはそれは宿命ではないような気もするんですけど、ここ20年間の実績を見る限りでは実際に消えていっています。そこ行くと紙に刷った書籍というのは消えないんですね。これは紙という物理的存在の性質によるところも少しはありますが、それよりも、過去数千年に渡ってその時々の文明国が文明国たる証明として維持管理してきた「書籍残すシステム」の存在のほうが大きくて、なので紙に刷っても書籍ではないもの扱いされると途端に保存状況が悪くなるわけで、書籍という体が大事ですね、ということになります。

幸いにして日本も一応いまのところ文明国なので(でも公文書すぐ捨てちゃうし準文明国くらいかなあ)、書籍残すシステムが整備されています。ですので、残すべき文章を作ったら、まずは紙の書籍を作ってこのシステムに載せよう、という話になります。何をもって「書籍」とするかという点については色々な定義がありますが、今回の文脈で言えば、書籍残すシステムが書籍と認めればそれは書籍です。では、日本の書籍残すシステムの要でありますナショナル・ダイエット・ライブラリ、国立国会図書館による定義を見てみましょう。


http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/deposit/deposit.html
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/deposit/pdf/deposit_request_pvt.pdf

【引用】
Q.
どんなものを納めなければならないのですか?
A.
原則として、頒布を目的として発行された全ての出版物です。
図書、雑誌・新聞だけでなく、CD、DVD、ブルーレイ、レコード、楽譜、地図なども対象となります。
また、自費出版でも、相当の部数を作成し配布されているものは納本の対象となります。
ただし、ホチキス留めなど簡易綴じのもの、頒布を目的としないものなどは、納本の対象とはなりません。
【引用終】

この「相当の部数」というものの定義が曖昧なんですが、文化庁の定義では50部の頒布をもって「発行」とする、という定義があり(※)、一方で国立国会図書館に電話で聞いたら「100部以上」と回答があったという未確認の噂もあって(※※)、あまり定まったものはありません。ですがまあ、無線綴じなり上製本なり、本またはブックレットみたいな体で100部刷れば、書籍とみなされると考えてよいでしょう。ISBNが付いているかどうか、というような話は、ここでは関係ありません。

※下記文書の25頁参照。 http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/toroku_seido/pdf/tebiki.pdf
※※ 噂の出処は下記を参照。但しあくまでも噂の域を出ない。 http://srad.jp/comment/2984168

従って、オフセットで100部刷った同人誌は、国会図書館への納本の対象である、ということになります。先方は「保管に適した環境の書庫で、可能な限り永く保存し、利用に供します」と仰ってますので、お手元に100部以上刷った同人誌のある方は、是非とも国会図書館へ2冊納本しましょう。宛先は下記の通りです。いきなり何の前触れも送り状もなく現物をどんと送ってしまっても問題ありません。

〒100-8924 東京都千代田区永田町1-10-1 国立国会図書館 収集書誌部 国内資料課 収集第一係

http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/deposit/images/deposit_02.gif



* 2 *

ということでオフセットで同人誌を100部刷って国会図書館に納本するだけでも充分といえば充分なんですが、それだけでは足りないシチュエーションというのもあったりします。やりたいのが翻訳出版であって、原著者側がこちらに対して会社組織であったり商業出版者であったりすることを求めてきそうな場合とか(しかし立ち止まって考えると会社というのは制度から言えば個人の責任を限定する方向に働くものなので、相手に対して会社組織であることを求めるというのはちょっと不思議な感じもします)。分野によっては、商業出版されることによって社会的に存在が認められた文章として扱われる、ということもあります。そうでないとしても、ISBNを取得して各種データベースに登録することで、当面の社会的な認知と、年を経た後でなお参照されうる可能性の向上もそれなりには期待できるでしょう。あとまあ、これは文書の内容にもよりますが、売る場所が広がる場合もあります(例えばコミックマーケットなど「法人が発行/制作したもの」の販売に制限がある場もあるので、場合によっては狭くもなります)。

つまり、なるべく手間をかけず商業出版者になることで、商業出版のシステムをつまみ食いする、ということが必要になったり、必要とは言わないまでもメリットが大きかったりする場合があります。ということで、手っ取り早くそういうものになるために便利な文献等をいくつか紹介したいと思います。

まず最も重要なのは、ISBN(厳密には、ISBNと書籍JANコード)を取ることです。「書籍を発行するとき、ISBNを付けなくてはならないという法令やルールはありません。ご自身が読者に直接販売・頒布する場合は、コード番号は必ずしも必要とされないでしょう。しかし、その書籍を書店やネット書店等で市販しようとすれば、その取引先からISBNコードを付けることを求められるでしょう。また、図書館を始め書誌情報を作成する方々にとって、ISBNコードは書籍を識別するためのコード番号として重視されてきています。」(日本図書コード管理センター「よくあるご質問」)
ということで、素早く申し込んでしまいましょう。申し込みのときに、ISBNと書籍JANコードあわせて3万円くらいのお金がかかります。なお、このコードの有効期限は3年で、更新時にもお金がかかります。

http://www.isbn-center.jp/regist/index.html

なお、ISBNのついた本には、ISBNと書籍JANコードの2つのバーコードをつけないといけないことになっています。バーコード作成用ソフトは市販でも色々ありますが、無料バーコード作成サイト(※)で作ったバーコードでも別段流通に影響はありません。

※例えば下記など。 http://rs-lab.net/jancode/

続いて、どうやって本を売るのか、ということになります。大雑把に言って「直売」「書店と直取引」「Amazon」「取次(=問屋)経由」の4つの経路がありますが、手続きだけなら最も楽なのはAmazonで売ることです。Amazonは「e託販売サービス」というのをやってて、年額9000円を払うことで、だれでもISBNが付いた本をAmazonに並べる権利を獲得できます(いまのところ取引条件は、原則として60%掛・送料こっち持ち・委託販売=売れなかったら返品されてくる、という条件になっています)。「e託販売サービス」で検索すればいくらでも情報が出てくると思います。とりあえず公式のページは以下にあります。

https://www.amazon.co.jp/b?node=4160761051&rw_useCurrentProtocol=1

書店との直取引、というのは、それこそ同人誌であればメロンブックスのような所が普通にやっているあれのことです(というか、さっきのAmazonのも「直取引」の一種です)。紀伊國屋書店や丸善ジュンク堂のような大書店チェーンは直取引の窓口を持っていることが多いので、やろうと思えばできますが、これをやり始めると本格的にマンパワーが必要になりますので、とりあえずAmazonのe託で売りつつ、取次との経路を準備する、というのがまあとりあえず無難な選択ではないかと思われます。

で、その取次なんですが、書籍取次の大手であるトーハンや日販は、新規の小出版社を取引先として見なしていません。小出版社を対象にした取次は、下記のようにいくつかあります。確認は取ってませんが、どこも出版社側が法人であることを前提にしているはずです…が、明らかに法人ではないだろう団体が取次と契約をしているのも事実です。
・トランスビュー
・地方小出版流通センター
・星雲社
・子どもの文化普及協会
・JRC
・ツバメ出版流通

これらのうち、出版社にとって最も分かりやすい条件を出しているのがトランスビューです。トランスビューが出している条件は、「まっ直ぐに本を売る(石橋毅史著、苦楽社)」にまとめられています(ウェブサイトには載っていません!)。何が分かりやすいかというと、他の取次の場合は「60%で出版社から仕入れて70%で書店に出す」みたいなモデルなので、一時的に倉庫に本を置いておくことに対するコストとかは取次側が持つことになり、つまり新規出版社との取引において若干のリスクが伴うことになるので、取引開始にあたって年ごとの出版計画みたいなものを書いて審査を受ける必要があったりするんですが、トランスビューの場合は「倉庫保管料が1冊につき月xx円、出庫の費用が1回yy円」というように、掛かるコストをそのまま出版社側に請求する形になっているので、トランスビュー側が持つリスクがごく限られており、なので出版計画とか無しで1タイトルから取引を結んでくれるんですね。とはいえ人文書の会社なのであまりにジャンルが違うと受けてくれないような気がしますが、仕組みから言えば最も広く門戸の開かれている取次だと言っていいでしょう。(なお、トランスビューは「取次」ではなく「取引代行」と形容してますが、これは理念的なものから来ていて、実務としてはまあ一緒です)

ついでオープンなのが地方・小出版流通センターですが、ここは「66%で出版社から仕入れて」モデルなので、年3タイトル程度の継続出版を求められます。取引開始希望のメールを送ると、FAXで(FAXです)案内書がやってきて、「会社概要・既刊図書、現在の販売経路と販売実績、今後2年間の出版予定(形態、価格、内容、著者等)」の提出を求められます(こっちもウェブサイトには載ってません!)。何しろ「現在の販売経路」を書かないといけないので、こちらを選びたい場合、まずはAmazonのe託から始めて…、ということにはなるでしょう。

トランスビューと地方小出版流通センターの違いは色々あるんですが、最大の違いは、トランスビューが委託が原則で書店には70%で卸しているのに対し、地方小は建前上は買切がメインで書店への掛率はもっと高い(注文経路によって値が変わるので具体的な値は示されていません)ということでしょう。「建前上は」というのは、地方小には特約書店というのが数十店くらいあって、これらの特約書店に限っては委託に近いかたちで販売され、そしておそらくこの数十店というのは小出版社の本でも売れる可能性のある大書店とほぼイコールなので結局そんな違わないんじゃないかということです。

契約が済んだらあとは本を作って売るだけで、本の作り方自体は別に同人誌と何も変わるところはありません(ただし、「短冊を入れる必要がある」「バーコードとISBN/書籍JANコードを載せる必要がある」「定価を載せる必要がある」「カバーは何かしらかけたほうが良い」という点のみ若干異なります)。営業活動というのは一応あるんですが、小出版社というのは書店営業みたいなことはほとんどやってないようです。メディアへのPRとか広告とか(書評を期待した)献本とかそれくらい。
【かつては暗黒通信団が「書籍制作と納品の仕方」というとても良い文書を載せていたんですが、非公開になってしまったみたいです】

あとは気構えとか諸々の話ですが、最近は「ひとり出版社」に類する本が数多く出ており、参考になるものも数多くあります。折角なのでここでいくつか紹介しておきます。



〈まっ直ぐに本を売る〉(石橋毅史、苦楽社)
取次としてのトランスビューの情報を得るのに最適な本であると同時に、出版社としてのトランスビューの思想もわかりやすく書いてあります。

〈ひとり出版社「岩田書院」の舞台裏〉(岩田博、1巻目は無明舎出版、2巻目以降は岩田書院)
ひとりで学術出版社を回すことに関する具体的な活動が詰まっています。たぶんこのシリーズよりも一人出版社のイメージを喚起する本は無いと思います。

〈翻訳出版の実務〉(宮田昇、日本エディタースクール)
翻訳出版をするなら、という前提で必読。必要なことはこの本に全部書いてあります。

〈出版状況クロニクル〉(小田光雄、論創社)
一応書籍のほうを挙げましたが、ウェブログの連載のほうがリアルタイムな感じがあっていいかも。日本の大規模商業出版流通に対して何の期待も持たなくなります。

〈計画と無計画のあいだ〉(三島邦弘、河出書房新社)
必読というほどではないですが、書店との直取引を行う出版社がどういうことをやっているのか、というイメージはつかみやすい本です。

〈日本でいちばん小さな出版社〉(佃由美子、晶文社)
本を作って流通させることのばたばたした感じはこの本が良いかなー、と。

〈あしたから出版社〉(島田潤一郎、晶文社)
ひとり出版社の営業活動が書かれているのは珍しいんじゃないでしょうか(っていうか書店営業やるひとり出版社が珍しい)。


あとはウェブサイトで、

〈本を出すまで〉(清田麻衣子、「マガジン航」連載)http://magazine-k.jp/category/series/hon-wo-dasu-made/
徒手空拳でおっかなびっくりやってるところが身近な感じがしていいです。マガジン航は他にも優れた記事が複数あります。

〈京都に出版社をつくる(には)〉(ホホホ座、「DOT Place」連載)http://dotplace.jp/archives/category/interview/%E4%BA%AC%E9%83%BD%E3%81%AB%E5%87%BA%E7%89%88%E7%A4%BE%E3%82%92%E3%81%A4%E3%81%8F%E3%82%8B%EF%BC%88%E3%81%AB%E3%81%AF%EF%BC%89
現状の崩壊した大規模商業出版流通システムと、その中でインディペンデントな出版をやるということについて、語られています。

日本著者販促センター http://www.1book.co.jp/
書店向けFAX営業の業者なんですが、コラムで色々と参考になる情報を載せたり引用したりしてます。
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# by Taiju_SAWADA | 2016-09-12 23:44 | 雑題

7つの習慣ボードゲーム プレビュー

「7つの習慣ボードゲーム 成功の鍵」というゲームを買ってきてルールを読みました。ふつうは遊んでいないゲームのプレビューはしないことにしているのですが、ちょっとこのゲームについては例外ということで、この段階で簡単なプレビューを急ぎ足でしたいと思います。

どういう意味で例外なのか、なんですが、まずこのゲームはウェブサイト等でルールが公開されていません。また、値段設定がかなり高め(二万円+税)なので、自分で買って読んでね、と言うのに無理があります。見た感じではルールの詳細に触れたレビューも少ないようです。まあこれらは本当はどうでもよくて、わたくしにとって重要なのは、このゲームがSid Sackson作「アイム・ザ・ボス (I'm the Boss! / Kohle, Kies & Knete)」の強い影響を受けている、悪意のある言い方をすれば所謂ぱくりがある、という話を耳にしたということです。そのぱくりというのがシステムの軽い流用程度のものなのか、それとも完全な盗作なのか。これは確かめてみる必要があります。というのはわたくし、「アイム・ザ・ボス」の日本語版出版に関わっておりまして、具体的にはルール和訳(初稿のみ)と一部ボード・カードのエディトリアルデザインをやってるのです。

そういうわけでございまして、次段落以降、アイムザボスとのルール比較という形で「7つの習慣」のルールを簡単に見ていきます。正直なところ筆致に稚拙な悪意が混じっているのは否定しがたいのですが、上記のような事情なのでご容赦いただきたく。(稚拙なのは単に時間なくて急いで書いているというこっち側の事情もあります)

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アイムザボスでは、プロジェクトに割って入ったり邪魔したりするために使う手札が重要な役割を果たしますが、7つの習慣には、その意味での手札はありません。あるのはプレイヤーの手元に置くビジネスマンタイルだけです。つまり、プロジェクトの交渉において、例の醜い主導権争いがなくなり、条件闘争のみになります。

【※これが最も決定的な違いと言えるでしょう。個人的にはこれでこのゲームへの興味が完全に萎えましたが、このゲームの本来の目的である講習的なアレを考えればアイムザボスみたいな意地汚いゲームが受け入れられるはずがないので、その意味では妥当な変更であろうと思います。どうしても面白くなきゃいけないってこともないでしょうし。あとまあこの段階で違うゲームになってるので提訴的なやつも無くなると言えるでしょう(そもそもゲームに著作権は…という話をおくとしても)。つまるところドミニオンが劣化デッキビルドを訴える権利も必要もどこにもないわけです。】

そのプレイヤーの手元に置くビジネスマンタイルですが、アイムザボスのように1種類につき1枚ずつしかないのではなく、いっぱいあります。ゲーム開始時には1枚だけしかありませんが、後から金で買えます。また、能力値の概念があり、難しいプロジェクトは能力値が高いビジネスマンしか参加できません。当然、高い能力のビジネスマンは購入費が高くなります。なお、所有ビジネスマンの能力値合計は勝利条件に絡みます。

7つの習慣には勝利点チップというのがあり、プロジェクトを成功させるとお金だけでなく勝利点チップももらえます。当然、勝利点チップも交渉対象になります。お金はビジネスマンタイルを買うのに必要なんで重要ですが、最終的な勝利条件に絡むのは勝利点チップのほうです。この変更はたぶん悪くないんじゃないでしょうか。

アイムザボスでは手番プレイヤーは「プロジェクト」か「手札補充」の2択から選択しますが、このゲームではその部分での選択権は基本的にありません。サイコロを振って出た目の指示に従います。出た目がプロジェクトならプロジェクト(プロジェクトのマスに止まったらプロジェクトの難度は自分で選択できます)、イベントならイベント、雇用ならビジネスマンタイルの購入、という感じです。あと「勝利点カードをもらう」というレアなマスがあります。

ええと、勝利点チップとは別に「勝利点カード」というものがあります。このゲームは何種類かの勝利条件があって、それを全部満たさないと勝利とはみなされません。で、勝利点チップと勝利点カードは完全に別の条件です。勝利点カードは4色あって、これを全て揃える必要があります。勝利点カードをもらうマスにとまったら、自分と誰か1人他プレイヤーを指名して、その2人が1枚ずつ任意の(ではなく山から3枚引いて好きなもの)色のカードを貰います。ちょっとしたネガティブフィードバック装置と考えればよいでしょう。

イベントは昔懐かしいこてこてなやつです。なお、悪いイベントを防ぐためのシールドも用意されており、特定のマスでお金を払うと買えます。

あと何か細かい要素がいくつかあります。

ちょっとおもしろいのは勝利条件で、このゲームは必ずしも勝者を一人決めるものではありません。ゲームは一定ターン数経過で終了し、(明確には書いていないんですが)終了時点で勝利条件を全て満たしているプレイヤーは全員勝利、満たしていないプレイヤーは全員敗北となります。ただし、勝利したプレイヤーの中でも、勝利条件の満たし方で優劣があります。プレイヤーはそれぞれミッションカードというのを1枚だけ渡されてゲームを開始し、そこに書かれたミッションを達成するのが勝利条件の1つになっています。このミッションは1枚1枚違うもので、難易度にばらつきがあり、難易度の高いミッションを達成したほうが優れた勝利だ、というわけです。そして、このミッションカードは特定のマスに止まると交換できます。難度の設定をある程度プレイヤー側で調整できるわけですね。普通の(1人勝ちまたは順位決めの)ボードゲームでは採用できないルールですが、これはこの種のゲームとしては気の利いたルールだと思います。

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と、こんな所です。勝利条件には見るべきところがありますが、その点を除けば、重要なところがスポイルされ、かわりに何か変な要素がいろいろ突っ込まれたアイム・ザ・ボス、というあたりの評価になります。既に書いた通り、その変更にはそれなりに尤もな理由があるんですが、それならアイム・ザ・ボスじゃなくてもよくない? という疑問はどうしたってあります。ただしこれはあくまでもルールのみ読んだ段階でのプレビューであり、遊んだ後には評価の変更を行う可能性が大いにある、とは申し添えておきます(付き合って遊んでくれる人がいればね…)。

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※それから業務連絡。このゲームのデザイナーであるNaoki Matsunagaさんは二度とわたくしの前に顔を出さないでいただけますようお願いいたします。
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# by Taiju_SAWADA | 2016-04-14 22:58 | 感想・紹介

ブルームサービスに魔法がかかっていない理由

えー、唐突ですが、ちょっと軽く「魔法にかかったみたい(Wie verhext! by A.Pelikan / Alea 2008)」と「ブルームサービス (broom Service by A.Pelikan and A.Pfister / Alea 2015)」の比較をやってみたいと思います。周知のごとく(というのは「こんなサイトを見ている人にとっては」という意味で、何かの拍子で開いてみただけの人には当てはまりません)「ブルームサービス」は「魔法にかかったみたい」の後継作で、「魔法にかかったみたい」が採用していた独創的なシステムをほぼそのまま引き継いで別のゲームを作っているわけですが、その別のゲームの載せ方がどうにもよろしくないように思えるわけです。ということで、魔法にかかったみたいがどんなゲームだったか、ブルームサービスはどんなゲームか、何が引き継がれていて何が落ちているのか、何を付け加えようとしたのか、というようなことをざっと見ていきたいなと。

まずは「魔法にかかったみたい (Wie verhext!)」のおさらいから。

何種類かあるリソースを集め、そのリソースを払って勝利点アイテムを早い者勝ちで購入するゲームです。
リソースを集めるアクション、変換するアクション、リソースを払って勝利点アイテムを購入するアクション、特殊アクションが全てカードの形で表現されており、各ラウンド開始時に各プレイヤーとも秘密裏に、全部で12種類あるアクションカードから5枚だけ選び、これを手札に持ってラウンド開始。
スタートプレイヤーが手札から1枚選んで出し、そのアクションを実行したい旨を告げます。1枚のカードには「リスキーな強いアクション」と「確実な弱いアクション」の2つが書かれているのですが、スタートプレイヤーは必ず「リスキーな強いアクション」を行いたいと宣言しなければいけません。そうしたら、スタートプレイヤーは他のプレイヤーに対して時計回りに順々に、同じカードを持っているか聞いていきます。同じカードを持っているプレイヤーは直ちにこれを出し、そのカードのリスキーな強いアクションを行いたいと宣言するか、確実な弱いアクションを今すぐ実行するか、選びます。全員に聞き終わったら、最後に「リスキーな強いアクションを行う」と宣言したプレイヤー(だけ)が、これを実行し、次のスタートプレイヤーになります。
全員の手札が無くなったらラウンド終了、また手札を選びなおして新しいラウンドを始めます。一定数の勝利点アイテムが売り切れたらゲーム終了、勝利点の一番多い人の勝ち。

さて、もちろんこれはバッティングに関するゲームです。12枚の中から選んだ5枚のアクション、他の誰とも被りがなければノーリスクで強い方のアクションが選べる一方、誰かと被ったら、その中で強いアクションを行えるのは一人だけ、またリスキーな賭に出て失敗すれば何もできないのであって、「基本的には」被らないアクションを選びたいということになります。なりますが、「基本的には」という留保が必要になる理由もあります。というのは、普通のバッティングゲーム(全員が一斉に数字カードを出しあうやつ)では勝負を一旦降りようと思えば楽に降りられるのが常ですが、このゲームでは選んだカードは同じタイミングで出さないといけないので、5人でプレイしている限り、バッティング自体からはそう逃れられない。そしてもう一つ、自分が最後の一人になれるのであれば、むしろバッティングは好ましいことだと言えます。他のプレイヤーは一回分の「強いアクション」を取る権利を無駄にして、自分は強いアクションを実施できるわけですから。ということで、プレイヤーが気にしなければならないのは「他の誰かが同じカードを選んでいないか(普通のこの手のゲームなら、それに加えて他の誰かがこちらを出し抜くカードを選んでいないか)」ではなく、「【誰が】同じカードを選んでいそうか」だということになります。「誰かが」ではなく「誰が」。この段階で既に、チャレンジの内容がひとつ具体的になっています。

リスキーな強いアクションを宣言して成功したら、次の一巡ではスタートプレイヤーになります。スタートプレイヤーは強制的にリスキーな強いアクションを選ばされ、そして後ろにはプレイヤーがいっぱい控えていますから、普通に考えればかなり高い確率で失敗します。ただし、後ろのプレイヤーが一人もリスキーなほうを選ばないということは充分にあり得るので、推理が正確にできているのであれば、無謀な賭けというほどではありません。つまり、このラウンドで成功しようと思ったら方法は2つあり、成功が必須ではないようなアクションをうまく織り交ぜて無理のない計画を作ること、そしてもう一つは他プレイヤーの手札と計画を推理したうえでのギャンブルです。条件がフラットであればもちろん無理のない計画を立てるべきですが、これはバッティングゲームである以上無理のない計画は100%の安全を全く意味しないので、計画の狂い方に応じて適宜軌道修正が必要になります。そして差が開いている場合にはギャンブルが必須になり、このギャンブルの成否は推理の精度に大きく左右されます。

推理です。実のところこのゲームは、バッティングゲームではありつつも、いわゆる心理戦のゲームではあまりありません。心理戦というのは「相手がいま何をしようとしているか」に基づく遊びであって、「相手がいま何をしたか」になると心理戦度合いが一段階下がります。そしてこれが「相手がちょっと前に何をしたか」になり、そしてそのちょっと前から現在までの間に手がかりとなるようなヒントがいくつも落ちているとなると、心理戦というよりは推理といったほうが相応しいでしょう。もちろん、徹底してデータとロジックで進んでいくいわゆる推理ゲームではありませんし、またこのゲームでもほとんどノーヒントで2択のギャンブルが発生するような場面もあり(ラウンド第一巡のラス前手番、重要なカードでリスキーアクションか安全牌か選ぶような状況など)、このような場面で行われていることは心理戦に近いとは言えます。

このゲームが心理戦のゲームではないにも関わらず、それでもプレイ感覚としては依然としてある種の心理戦のように思える理由は、プレイの流れが心理戦のそれと似ていること、それによって心の動き方が心理戦のそれに似たものになるためでしょう。アクションを選ぶ→そのアクションの成功を祈る→残酷な結果が明らかにされる。この流れがとても短いスパンで次々にやってくることによる眩暈が、典型的な心理戦のゲームと似ているんです。(関係ない話ですが、この面では「髑髏と薔薇」もこれに近いことをやっています)

心理戦のもっとも重要なポイントであるところの眩暈を押さえつつ、心理戦にありがちな計画性の欠如からは逃れており、ミクロな個々の局面では一定の根拠に基づく推理(と時にアクセントとしてのギャンブル)、中距離では1〜2ラウンド単位での行動計画策定という、丁度良い具合に考えさせてくれる内容を持っており、しかしそれは静的な戦略研究への要請には繋がらない。「魔法にかかったみたい」は、とりあえずそういうゲームです。

それでは「ブルームサービス」はどういうゲームなのか。

これは土地を移動しながら、各地でリソースを捧げることで勝利点を獲得するゲームです。
基本システムは「魔法にかかったみたい」と同様ですが、アクションの種類が概ね「移動」「リソース取得」「勝利点の獲得」の三種類となります。移動の存在が主要な差異ですね。土地のそれぞれには色がついており、「隣接する黄色の土地に行く」アクション、というようなものが(色ごとに1枚ずつ合計4枚)用意されています。

この移動のシステムが、ブルームサービスを元の作品と大きく違うものにしている原因です。「魔法にかかったみたい」では、得点の高いアイテムは必要なリソースの量が多く、また得点の低いアイテムが取られた後でしか出てこない、ということになっていました。ブルームサービスでは、得られる勝利点にかかわらず、捧げるべきリソースの量は1個で固定です(微妙な例外がありますが、これは本当に例外なので、説明を省きます)。その代わり、得点の高い土地(アイテムの捧げ先)はスタート地点から遠い所にあり、大量の回数の移動を成功させないと届きません。

つまり、ともかく大量の移動アクションを成功させないといけないということになります。なるんですが、ここで問題になるのが移動先の色のルールです。例えば2歩先の緑の土地に行きたいとなったら、まず最初に「隣接する黄色の土地に行く」続いて「隣接する緑の土地に行く」を成功させないといけません。順番はとても重要です。逆に出したら一歩も動けません。普通のゲームなら逆に出すなどということは有り得ませんが、このゲームは「魔法にかかったみたい」と同じシステムを採用していますから、スタートプレイヤーが「緑の土地に行く」を先に出してしまったら、もう遠出できないことはそれで確定です。さらに言えば、ここは元のゲームと異なるところで、ブルームサービスではスタートプレイヤーも「確実な弱いアクションを今すぐ実行」を選択でき、そして弱いアクションでも移動はノーペナルティでできるので、端的に言えばブルームサービスは「誰かがスタートプレイヤーとしてこちらに不都合なカードを出してくる前に、スタートプレイヤーの権利を確保して弱いアクションで確実に移動する」ゲームだということになります。

この目的のもとでは、最初のカード選択は、「キーになる移動カードを選ぶ(2歩移動するリスクを犯すか否かの意思決定があります)」「スタートプレイヤーの権利を確保するために、誰かとバッティングしそうなカードを選ぶ(リソース補充などのアクションが行えればなお可)」という基準で行うことになります。さらに言えば、スタートプレイヤーの権利を確保するためのバッティング用カードは、自分が2番手であるような巡目でヒットしてもあまり意味がなく、理想的にはラス番で回ってきてほしいわけですが、ここをうまく制御することは極めて難しく、自分が第一巡のラス番だというのでないかぎり、かなり運任せに近くなります。2番手または3番手であるような巡目でそのようなバッティング用カードがヒットした場合、これはリソースではなくスタートプレイヤーを取りに行っている以上、リスキーな強いアクションを宣言する以外の選択肢が無いので、後ろを推理してどうこう、という事もありません。もう少し仔細がありますが、要はブルームサービスでは、リスキーな強いアクションを選ぶべき時と弱いアクションを確実に実施すべき時の差が極めて明確で、相手の手札次第で行動を変えるべき局面がとても少ないので、ブルームサービスには存在していた推論のミクロな遊びは丸ごと失われることになります。

これは移動をメインにした、ある種ピック&デリバーの亜種とも言えるゲームであるわけですから、失われたミクロな推理を補うためにルート選択における優劣が存在すべきなんですが、このゲームの基本マップでは、まず目指すべきルートと保険としてとっておくべきルートの選択肢がこれもまたあまりにも明確で、違いといえば保険をどれくらい大きく載せておくかしかありません(※)。
(※)上級マップでは、この意味での遊びどころがいくらかはあります。上級といっても面倒なルールがそれほど大きく増えるわけではありませんので、ブルームサービスをこれから遊ばれるという方には、最初から上級マップで遊ぶことを強くお勧めします。ただ、遊びどころがあるとはいっても、何しろ流れに大きく振り回されるゲームだということは予め了解しておくべきでしょう。流れに振り回されたまま、もう逆転は不可能になっていた、みたいなことは基本マップ・上級マップを問わず、よくあります。どうせ流れに振り回されるなら最終ラウンドでの大逆転みたいな線も一応用意しておいてくれよ、と思うのは人情ですが、ブルームサービスはラウンドごとの地道な移動を何回成功させたかで勝敗が決まるゲームなので、そういう機能は用意されていません。マクロレベルでの優劣を問わない「魔法にかかったみたい」では、最終ラウンドに大きい勝利点アイテムを立て続けに攫って大逆転、ということを可能にするための諸々も準備されていたのですが。

ラウンドごとに計画を行う楽しさは(計画の内容が大きく異なるとはいえ)引き継がれていますし、それは充分に楽しいことではありますから、少なくとも上級マップで遊んでいる限り、単体で見て全く評価できないゲーム、ということは無いでしょう。しかしやはり、元のゲームと較べてしまうと、噛みあわせが悪いルールの上に載せ替えたせいで、本来このシステムが持っていたはずの独創性がスポイルされ(何せカードを出した後にリスクを取るか取らないか悩む時間が殆ど無いわけですよ)、あまり移動できない変な移動ゲーム、というところに落ち着いてしまっています。元のゲームに比べてあまりプレイヤーに多くを要求してこず気楽に遊べる、というメリットは一応見いだせますが、しかしゼロ年代を代表する名カードゲームを押しのけてまで出す必要があったゲームなのか、正直に申し上げて憤りに近いものを感じております。

# 近々出版が予定されているというブルームサービス・カードゲームが魔法にかかったみたいの完全な復刻なのであれば、とりあえず水に流すことはできますが、どうなんでしょうね
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# by Taiju_SAWADA | 2016-03-03 23:50 | うわごと

ハイパーゲーム理論を用いた誤認識解消のための仲裁メカニズムの分析

むかし書いた修論が出てきた うれしい
http://twitdoc.com/53ZU
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# by Taiju_SAWADA | 2015-12-17 23:50 | 雑題

Dummett and McLeod に書かれたタロットゲームを遊ぶための準備 #3

そろそろMcLeodに許可とったほうがいい気がしてきた(Dummettは故人)。
3章はイタリア以外でのクラシック(18世紀式)タロット。



タロットの基本形は「3人用」と「4人用」の2つ。78枚使用、フールはエクスキューズ扱い、
オナーはK,XXI,I,フールで各5(1+4)点、Qが4(1+3)点、カバロが3(1+2)点、Jが2(1+1)点。
3枚または4枚(=1トリックの枚数)につき1点【上記はこの1点を含んだ点数】。
ビッド、宣言、ボーナスなし。
3人ゲームではパートナーなしの個人戦。ディーラー28枚残り二人25枚配り、ディーラーは3枚捨て札。
捨て札はディール終了時にディーラーのものになる。オナーは捨てられない。3枚で1点。
4人ゲームでは、2-2の固定パートナー制。パートナー同士で向かい合わせに座る。
ディーラー21枚残り18枚配り、ディーラーは2枚捨て札。
捨て札はディール終了時にディーラー側チームのものになる。オナーは捨てられない。4枚で1点。

多くのタロットゲームがこの2つの細かいバリエーションでしかなく、実際イタリア以外で18世紀以降に作られた
度のゲームもこれをベースにしている。1700年以前にパリやノルマンディで遊ばれていたものを例外とすると、
イタリア以外のタロットは、東フランスのどこかで早い時期に遊ばれていた、そこに単一の起源があると考えられる。
(ドイツへのタロットの伝播は、イタリアからではなくフランスのアルザス経由。1600年前後。
 ところで、ボヘミアへの伝播はドイツ経由ではなく、1586年には既に知られていたらしい)

2人用ゲームも18世紀後半以降盛んに遊ばれていた模様。こちらも起源は単一のところに遡れるようで、
おそらく1750年頃のドイツ。1800年にドイツで出た本には言及がある。また、後述するフランスのオカルトタロット本
のルールからも、二人用ルールがメジャーだった形跡が見られる。

タロットの最盛期は1730-1830年(cf.モーツァルトは1756年生、1791年没)。
イタリア、東フランス、スイス、ドイツ、オーストリア=ハンガリー、ベルギー、オランダ、デンマーク、
スウェーデン、ロシアで盛んに遊ばれていた(ただし「国際大会」的なものは無い。あくまでもコーヒーハウスとか
自宅とかそういうところで遊ぶもの)。そして、細かい違いはあれ、ルールは基本的には同じものだった。

ドイツでは18世紀以降、カードゲーム本の出版が何冊も行われている。
19世紀(1846)にはアムステルダムでブックレットも出版されている
(19世紀に入るとドイツでGrosstarockが生まれ、オーストリアやフランスでは古いタロットはこれに置き換えられていく。
 オランダでは既に1821年には近代的なGrosstarockが遊ばれているので、このブックレットはold-fashionなゲームの紹介。
 一応18世紀型のゲームも生き残っていて、1890年にはフランスでパンフみたいのが出ている)
フランスでは18世紀の本でのタロットへの言及は1冊しかなく、それもオカルトタロットで起源をエジプトに求めている著者が、
友人から聞いた話としてまとめたもの。パリではこの時点で(1781年)既にタロットは遊ばれなくなっていた。
 
(東)フランスやドイツのタロットに最初にひねりが入れられた記録は1754年のもの。
まず手役が入った。(イタリアだと16世紀の時点で出来役の概念があるが、ドイツ・フランスではあくまで手役。たぶんOmbre由来)
つぎにIやKで勝ったときのボーナス、負けたときのペナルティ。(3人ゲームでは、ペナルティは残り2者両方に払う。)
(「最後のトリックをIで勝つ」というタロットの重要なルールはここから派生していて、これはイタリア由来ではない)
最後に、愚者の出し時の制限(最終3トリックで出すの禁止ルール。愚者がスキュースになってからは、最終3トリックでの無力化)。
ちなみにフランスでは「最終トリックのみ禁止」だったが、後に広まったのはドイツの「最終3トリック」のほう。

タロットの諸ルールは元々3人用を想定して作られたものなので、4人用にアダプトする際に問題が生じた。
たとえば自分がIを出し、勝ったのがパートナーだったら(これについては、18世紀当時はノーボーナスノーペナ。
後にペナルティ扱いになった)。ボーナスやペナルティはパートナーも受けるのか(受けるという原則が固まった)。

4人用拡張がどうやって出てきたのかははっきりしない。1846年オランダの本には、3人ゲームの4人拡張としての
ルールが記載されている。どちらかというと少なくとも19世紀以降の4人タロットはクラシカルな固定パートナー制ではなく
新式のもの(Lombard/Vinnese式。6章)で遊ばれるのが普通だったようで、オランダでも1821年の本には
そっちしか載っていないし、どいつでは旧式4人タロットへの言及はごくわずかなものしかない。
例外はミュンヘンで、ミュンヘンでは1756年の段階で、カードを103枚に拡張した4人ゲームの記述がある
(追加する25枚は本によって違いがある。全切札、愚者、ハートのACKとする本もあれば、XIII-XXI,I,愚者と♡全て、
 とする本もある)。同じカードが先出し有利か後出し有利かは不明。


3.1 ドイツ Taroc (18世紀中盤)
3人用。オリジナルランク。だいたい上記のルールにそっている。
・Kは捨て札禁止。「切札がちょうど3枚あるとき」「I, 愚者+あと切札1枚だけ」のいずれかの場合のみ、切札を捨てられる。
・愚者の捨て札についてはコメント無し。
・手役宣言あり。ディーラーから一巡。義務ではない。宣言した札は公開。点数を直ちに他の2人から受け取る。
 手役は以下のとおり。
 「Matadors」3枚式マタドールはXXI, I, 愚者。10点(取り決めによって20点の場合もある、とする本も)
 「Matadors(4+)」4枚式マタドールは書いてない本もある。3枚式に加えてXXからの降順連番。3枚目までで10点、
   4枚目以降の1枚につき5点。
 「Cavallerie」1スートのコート4枚揃い。本によって4点とか10点とか。
 「ハーフCavallerie」1スートのコートのうち3枚。フルが10点の本で、5点の扱い。
 「切札10枚以上」愚者は含まない。10点(本によって11枚目から1枚5点のものも)。ローカルルール扱いの本も。
   本によっては、宣言者の得点が26点以下だったらこの宣言による得点は無しになる、とするものも。
 「K4枚」10点。3枚だと5点。
・愚者は逃げ用。交換あり。ただし、「サレンダー」(逃げに使った愚者の交換用トリックを最後まで取れなかった時の没収)無し。
・愚者はリードできない(本に寄っては、リードできるルールのところもあり、この場合は切札リードと同じ扱い、とも)
・PAGAT ULTIMO: Iで負けたらペナ5点。最終トリックにIで負けたらペナ10点。最終トリックIで勝ったらボーナス10点。
 

3.2 フランス(前述のオカルトタロット本に書いてあるやつ)
28-25-25の3人制。Jの次は必ず10式。逃げ愚者(おそらく交換)。ディーラーは3枚捨て札。切札、K、愚者は捨てられない。
手役は以下のとおり。一巡の宣言。
愚者+XXI+I : 15点
切札10枚 : 10点
同13枚: 15点
1スートのKQCJ揃い:5点
最上位の切札上から5枚すべて: 10点
最下位の切札下から5枚すべて: 10点
最上位の切札上から5枚のうち任意の3枚: 5点
最下位の切札下から5枚のうち任意の3枚: 5点
XXI, I, 愚者のうち2枚を持っていることを宣言し、相手(のうち一人)を指名。相手が持ってなかったら、その人から5点。
(相手は持ってるならそれを公開)
切札10枚/13枚の場合は公開、その他は非公開。
プレーは普通に行う。
ディール終了後、得点計算時のボーナスポイントは以下のとおり。
・相手の出したIを取る:5点
・相手の出したKを取る:5点
・1トリックでK2枚と愚者を取る:5点
・1トリックでK3枚を取る(オカルトタロット本には違うことが書いてあるが、誤記と思われる):15点
ディールごとに得点を計算し、そのディールの最下位からの差分をスコアとする。100点先取。
得点計算時に特殊なのは、「(3枚ではなく)2枚で1点」となるところ。


3.3 オランダのTarok (1846)
3人用。オリジナルランク。逃げ愚者(交換あり:トリックを持っていないと愚者を出せない)。ディールとプレイが「時計回り」。
28-25-25。カードの配り方は5枚ずつではなく、3枚ずつ(8週目は4枚)。
ディーラーの捨て札における制限はないが、たぶん単に書き忘れ。
手役は以下のとおり。誰から宣言するかは書いていない。
切札10枚:5点
切札9枚+愚者:5点
K4枚:5点
K4枚+愚者:10点
K3枚+愚者:5点
1スートのKQCJ:5点
1スートのKQCJ+愚者:10点
1スートのK+(QCJのうち2枚)+愚者:5点
マタドール(XXI, I, 愚者):5点
愚者は手役1つにしか使えない。
切札9枚+愚者の宣言者は26点取る必要あり(取れなかったらリファンド)。
プレイは基本的には通常通りだが、2人目が切札を出している場合、3人目にはマストラフ制限はかからない。
愚者リードは不可。最後の2トリックで出されたら、逃げ機能は失われ、普通に負け札としてとられる。
得点ルールは普通通り。各2者間で差額払い。


3.4 ベルギータロット(1890-1910)
3人用。オリジナルランク。逃げ愚者、交換あり。
28-25-25。切札とKは捨て札不可、ただし切札が3枚ちょうどだった場合はこれを捨ててもいい。
マタドール(XXI,I,愚者):15
1スートのKQCJ:8
1スートのKQCJのうち3枚+愚者:4点
K4枚:12点
K3枚+愚者:10点
K3枚:8点
K2枚+愚者:4点
切札10枚以上:切札の枚数x1点
手役は宣言時の公開義務なし。
愚者は最後の5トリックでは効力を失う。
Iを出したトリックで勝てば5点、負ければマイナス5点(最終トリックなら倍)。


3.5 ドイツの2人用タロット(19世紀。1840など)
28-25。残りはそのディールでは使わない。交換ありの逃げ愚者。ラスト3トリックでは(5、とする本も)愚者は効果を失う。
ルールは3人タロットに基本的に等しく、手役等も3人タロットに準ずる(3.1のルールや、4章にあるルールのもの)。
ディーラーの相手からプレイ。
ボーナスは以下のとおり。Kの入ったトリックを取ると10点(最終トリックなら15点)。Iの入ったトリックは15点(最終は25)。
スコアは差分ではなく取ったものをそのまま点数になる。本によって100点先取/120点先取で1セット。
120点先取の本には、相手が60点以上なら1vp、30-59点なら2vp, 1-29点なら3vp, 0点なら4vpというスコアリングで
支払いを決めるとある。


3.6 オランダの4人用タロット(19世紀)
時計回り。ディーラーの左隣から配って21-19-19-19。2枚捨て札。手役あり。手役の点はチームの2人両者が払う。
誰かが既に切札を出しているトリックでは、それ以降のプレイヤーにはマストラフは適用されない。
「3枚で1点」。端数は四捨五入。片方のチームが全トリック取った場合は点数が倍。


3.7 「Tarok-Whist」(1890年代ドイツ。ホイストとのルール上の繋がりはない)
固定パートナーの4人用。時計回り。ディーラーの左隣から式。21-19-19-19。Kと切札は捨てられない(愚者はOK)。
手役は4章で述べる3人用のものと同じ、とあるが、調整無しで使われているというのはやや信じがたい。
交換ありの逃げ愚者。ラスト5トリックでは、愚者は効果を失う。
4枚で1点。チーム得点が36点を超えたら、その分を記録。
4ディールで1ゲーム、差分を精算。点差が36点以上か負けチームが0点だったら、支払いは倍。
6ゲームで1セット。6ゲームを完全固定パートナーでやる場合と、2ゲームごとに入れ替える場合がある。
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# by Taiju_SAWADA | 2015-09-24 01:47 | 雑題

Dummett and McLeod に書かれたタロットゲームを遊ぶための準備 #2

ところでこれだけイタリアがイタリアが言っておきながら、この本でイタリアのタロットゲームが紹介されるのは第2部。
Ch.2から始まる第一部で紹介されるのはフランスとスイスのタロット。



Ch.2 初期のフランス・スイス物


ミラノが1494年から1522年にかけてフランスの占領下になったとか、スイスもマリニャーノの戦いでフランスに負けて以降フランスの影響が色濃くなったとかで、フランスとスイスには16世紀初頭にタロットが渡っている。16世紀のフランスの文章には、タロットについてかなり多くの言及がある(最初のものは1534年)。宮廷でも、グルノーブルで1579年に遊ばれていたとの記述がある。1615年にはボルドーでルイ13世が遊んだとも。1622年にFrancois Garasseは「フランスではチェスよりタロットのほうが人気がある」と書いている。

タロットゲームのルールについて触れた最も古いフランスの文献は1637年、"Regle du Jeu des Tarots" (Michel de Marolles著。以下RT)に遡る。
その後1659年に別の本La Maison academique des jeux(以下MA)が出ている。MAの記述はRTにくらべて不明瞭な点が多い。MAにはフレンチタロット3種とスイスタロット1種(MAによれば「スイスやドイツでは他のゲームは通常遊ばれない」)が載っているが、説明がクリアなのはスイスタロット1種だけ。なお、「Jの次は必ず10式」が登場するのはMAから。

16-17世紀のスイスでは法令で色々なカードゲームが禁じられていたが、trogge(n)のように認められているゲームもあった。最も古い言及は1572年。1741年頃までは続いていた模様。

パリでは1725年までにタロットは廃れ、東部(アルザス、ブルガンディetc)でのみプレーされるようになった。Depaulisは廃れた時期を1650年頃と推定している。20世紀になってフランスではタロットのリヴァイヴァルがあったのだが、その間も東部ではプレイされていた。



■2.1 17世紀初頭のフレンチタロット(RT 1637)

カードの呼び名について
愚者を含む切札は「Triomphes」と呼ばれる。XXI(世界 le Monde)、I(le Bagat。イタリア語のバガットから)、愚者(le Math。イタリア語の愚者Mattoから)の3枚の切札と、4枚のKが、「Tarot」と呼ばれる。騎士がシュバリエと呼ばれるのはフランスの通例だが、ジャックがFaonsと呼ばれるのは通例とは異なる。勝利点はmarqueと呼ば得れる。コインのAはla belleと呼ばれる。

基本
基本は3人制の個人戦。78枚フルセット使用。愚者は逃げ(エクスキューズ)用、見たところ交換なしの模様。オリジナルランク。
(さわだ:フォロー形式について言及がなし。たぶん標準のマストラフ)

ディールと手役の宣言
1stディーラー決め:一枚めくって最も高いランクのカードを出したプレイヤー(愚者は普通の数字札より下扱い)。
ディーラーは山札の一番下のカードを公開する。これがTarotだった場合、ディーラーは他のプレイヤーから1勝利点ずつ貰える。
その後カードを配る。ディーラー自身に28枚、他の2人に25枚ずつ。
ディーラーは4枚、他の2人は1枚ずつ、捨て札にする。ディール終了時に自分の取り札扱いになる。切札やTarotは捨ててはならない。
捨て札の後、プレイヤーは(たぶんディーラーの右隣から)順々に、手役を宣言していく。
複数の手役を作ってよく、別カテゴリの手役なら同一のカードを複数の手役のために使ってよい。
宣言した手役は公開。手役になるカードがあっても宣言の必要はない。
手役を宣言したら、ただちにそのぶんの勝利点を他の全員から貰える。
(手役の概念はイタリアのタロットゲーム「ミンシェット」に由来)
(さわだ:手役は全部一度に宣言するのか一周ごとにひとつなのか書いていないが、一度に全部と考えるべきだろう)

手役
・コインのA:1点
・Tarot4枚/5枚/6枚/7枚:1点/2点/3点/4点
・Tarot7枚+コインの1:5点
・K3枚/4枚:1点/3点
・愚者+K2枚/3枚/4枚:1点/2点/6点
・切札10枚/15枚/20枚:1点/2点/3点
・同スートのKQCJ揃い:1点
・Q4枚またはC4枚またはJ4枚:1点
・最上位の切札上から4枚/5枚/6枚:1点/2点/3点
・最下位の切札下から4枚/5枚/6枚:1点/2点/3点

加えて、
・XXI, I, 愚者のうち2枚を持っていることを宣言すると、この3枚のうち1枚も持っていないプレイヤーから1点貰える。

プレーにおける特殊なルール
愚者をリードで出してはいけない。最終トリックで出さざるを得なくなったら勝利点2ずつ全員に払う。
最終トリックをIかKで勝ったら全員から勝利点6ずつ貰える。
Tarotでトリックを取ったら、全員から勝利点1ずつ貰える。
Tarotでトリックに負けたら、全員に勝利点1ずつ払う。

二人で遊ぶ場合
ダミーの「三人目」の手札を配り、伏せ山札として積んでおく。プレーでは2人のプレイヤーの分しか出さない。
トリックに勝ったプレイヤーがダミープレイヤーの山札から一枚めくり、これも自分の取り札として獲得する。

66枚ヴァリアント
各スートから最弱の3枚を抜く。手札は24枚/21枚配りの4枚/1枚ディスカード。後は一緒。
パンフレットの著者は非常に好意的にこのヴァリアントを紹介している。
ただし、このヴァリアントが広く遊ばれた形跡はなさそう。



■2.4 フレンチタロット (MA 1959)

カードの呼び名
XXIが世界(モンド)、Iは奇術師(バテル)、愚者はle Fou。Kはシュバリエ、JはValets(従者)。

基本
人数の取り決めなし。個人戦。78枚フルセット。愚者は逃げ(エクスキューズ)用で交換あり。Jの次は必ず10式のランク。

ディール
配る枚数は事前に適当な枚数を決めておく。ディーラー含め全員同枚数。捨て札なし。
全員、合意した賭け金(さわだ:競りのルールとかないのでたぶん固定)をテーブルに置く。

プレイ
ふつうにやる。  

カードの点数
愚者5点、XXI4点、I:4点、K4点、Q3点、C2点、J1点。
書いていないが、おそらく上記に加えて1トリックにつき1点。
最多得点のプレイヤーが賭け金総取り。




■2.5 フレンチタロット(2つめの版)(MA 1659)

2-6人(ベストは4人)。個人戦。全員に12枚配り、捨て札なし。
プレイは普通に行う。愚者5点、XXI4点、I:4点、K4点、Q3点、C2点、J1点。
加えて、「取ったカードの枚数-12」が得失点として加わる。合計点がそのまま勝利点になる。
勝利点の合計が50以上になったらそのプレイヤーの勝利。



■2.6 La rigueur (「厳格」、MA 1659)

ヴァリアント。
「ソード」のスートのカードは全て、準切札となる。
トリックの中に切札が無い場合、準切札であるソードの最高ランクのカードがトリックを取る。
ソード以外のスートがリードされ、そのスートが無い場合、マストラフは準切札でも切札でもOK。
準切札であるソードがリードされ、手持ちにソードがない場合、マストラフは切札で行う。
切札がリードされ、手持ちに切札がない場合、準切札はださなくてもいい。



■2.7 スイスの初期Troggen(MA, 1659)

カードについて
ふつうのフランス式78で紹介されているが、なぜか皇帝と女帝の数字が逆。
誤記とも思われるが、実際に18世紀のフランスのタロットカードには、皇帝と女帝が逆になったものがある。

概要
3人。個人戦。78枚フルパックを使用。愚者はエクスキューズ(交換あり)。おそらくオリジナルランク。

ディールとプレイとスコアリング
ディーラー28枚の子25枚配り。親のみ3枚捨て札。おそらく切札とKと愚者は捨て札禁止。
得点は標準式。ポイントは「XXIが5点、Iが5点、Kが5点、Qが4点、Cが3点、愚者が3点。
Jの2点がないのは、単に書き忘れと思われる。
得点がそのまま勝利点。3ディールの合計得点で勝敗を決める。
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# by Taiju_SAWADA | 2015-08-16 18:51 | 感想・紹介

Dummett and McLeod に書かれたタロットゲームを遊ぶための準備 #1

Dummett and McLeod "A History of Games played with the Tarot Pack (vol. 1/2)" (2004) はタロットゲーム本の決定版と名高い本で、なんか200個くらいのルールが、歴史的な流れとかの説明といっしょに詰まっているようです。

前回触れた「ボードゲーム読書会」は20:00集合なんですが人が出揃うのは20:30くらいになるので、その間の暇つぶしにタロットでもやろうかな、と思っており、遊びに必要そうなところを抜き出して適当にまとめていくことにします。

ほんとはまとめとかしないでぱっと英語の本を開いてあそべればいいんですけど、最初のゲームの説明に入る前に原則の話が18頁くらいつづくので、まとめておかないとしんどいんですね。

Dummettといえばタロット占いdisでも有名なひとで、この本にもきっちり載ってますが、そういうところは省略していきます。

タロットゲームの歴史に関しては、なんか面白そうだったら適当にみつくろってまとめていきます。




#1.

タロットカードは北イタリア発祥。おそらく1425年頃。
現存する最古のカードはミラノ宮廷のために作られたもので推定1441年製。
タロットに触れた文献で最も古いものはフェラーラ宮廷から出てきたもので1442年。
15世紀末ころにはローマ以北では知られるように成っていた。
16世紀はじめにはフランスやスイスにひろがる。
15-17世紀にはタロットに関する言及が大量にあり、その言及はすべて(オカルトではなく)カードゲームに関するもの。
占いに使われだしたのは18世紀に入ってから(フランス、ボローニャ)。オカルトタロットは主にフランスで流行。

15世紀イタリアにおいて、タロットゲームは「トリオンフィ(=切札)」と呼ばれていた。
また、タロットのカードパックは「Carte da trionfi(=切札つきのカード)」と呼ばれた。
(タロット、イタリアではタロッコ/タロッキ、の名前になるのは16世紀から。)
15世紀にはすでにイタリア式トランプ(キング、カバロ、ジャックと数字札。スートはソード、バトン、カップ、デナリ)は存在。
(1740年頃から、♠♡♢♣のフランス式に置き換わっていく。ソードとバトンが♠♣、カップとデナリが♡♢)
タロットはこれに特殊な札(21枚の「トリオンフィ」と1枚の愚者(Matto)。スートなし)を追加したもの。
また、切札以外にもクイーンが加わる。
以降、絵札をKQCJA(Aはエース。エースは文脈によって入らないことも、っていうか入らない事のが多い)と呼び、スートはS,B,C,Dと呼ぶ。
なお、切札のうち、「世界 XXI」「天使(または審判)XX」と「バガット(僅少) I」は特殊な扱いになることがある。
タロットゲームというのは要は固定の切札のあるトリックテイキング。通常カードと構成の違う切札の存在が肝になる。
トリックテイキングというのはそれまでにも存在していて、たぶん14世紀にイスラム世界からやってきたのだが、
その段階では切札はなかった。切札の発祥は、タロットのほか、ほぼ同時期のドイツでKarnoeffelというゲームもあるが、切札の概念が広まったのはタロットから。
15世紀後半以降、トランプでもスートのひとつを切札として遊ばれるようになる(「トライアンフ」に類する名前で呼ばれた)。
これらのうち、イギリスのトライアンフはホイストの祖先になる。
なお、この頃すでに切札スートはディールごとに変えらていれたのだが、ビッドの概念がまだ無いので特に意味はなかった。
(ビッドの登場は17世紀以降)



【ルールの基本】

大概のタロットゲームでは、カードはディーラーの右隣から反時計回りに配る。
大抵は、最初のトリックのリードはディーラーの右隣。カードプレイも反時計回り。
プレーの前に宣言のフェイズがあるたぐいのゲームでも、ディーラーの右隣から始まるのは一緒。
概ねいわゆるポイントトリックテイキングのルール。
切札が出ていれば最高ランクの切札の勝ち、出てなければリードスートの最高ランクの勝ち。
取ったトリックのカードは1トリック分をひとまとめに伏せて自分の近くにおいておく。切札は数字が大きいほうが強い。
ただし、
・リードスートが無いが切札はあるという場合、切札を出さないといけない。【以降、これを標準ルール(マストラフ)と呼ぶ】
という点は大きく異なる。なおルールに拠っていろいろある。
また、ランクも特徴的で、通常のゲームでは、
・ソードとバトンは(強)KQCJ-10-98765432A(弱)、カップとコインは(強)KQCJA23456789-10(弱)。
以降、これを【オリジナルランク】と呼ぶ。これに対して、フランスやシチリアで遊ばれているタロットでは、
・どのスートでもKQCJ-10-98765432A。
以降、これを【Jの次は必ず10式】と呼ぶ。
(昔のゲームではスートごとにランク順が違うことが多いようです)




【愚者について】

・元々のタロットゲームでは、愚者はマストフォロー/ラフから逃げる(エクスキューズ)ためのカード。
 愚者を出して逃げた場合、出した愚者はトリック勝者のものにならず、愚者を出したプレイヤーが獲得する。
 このルールを【逃げ=エクスキューズ用の愚者】と呼ぶ。
 なお、ルールによっては、愚者は出したプレイヤーが獲得するが、愚者を出したプレイヤーはその代わりに、
 自分が獲得していたカードから任意の一枚を選んでトリックの勝者に差し出さなければならない。
 これを【逃げ用の愚者(交換あり)】と呼び、【逃げ用の愚者(交換なし)】と区別する。
 なお、一般に、愚者を獲得したプレイヤー(チーム)が最後まで一トリックも取れなかった場合、その愚者は、
 元々のトリックを取ったプレイヤー(チーム)に没収される。愚者を出した時点で一トリックも取っていなかった場合、
 いったん愚者を表向きにして置いておき、一トリックとった時点でそこに混ぜ、交換を行う。
 なお、その他にも、最終トリックでの愚者は没収、ラスト数トリックでの愚者は没収、など、いろいろある。

・18世紀以降、上記とは異なる愚者のルールが登場した。つまり、単に愚者を最強の切札として扱う。
 このルールでは愚者はよく「スキューズ」と呼ばれる。
 以降、このルールを、【愚者=スキューズが最強】と呼ぶ。



【ポイントルール】

個人戦の場合もあり、2チーム対抗戦の場合もある。
元々のタロットゲームでは、1トリックにつき1点+ポイントカードによる得点。
ポイントカードによる得点について、K=4点、Q=3点、C=2点、J=1点は多くのゲームで共通。この4ランクを【絵札】と呼ぶ。
切札のポイントには色々あるが、XXI, I, 愚者にポイントが乗る場合が多い。この3枚を【標準役物(オナー)切札】と呼ぶ。
最も標準的なルールでは、【標準役物切札】は各4点。
これに先ほどの絵札とトリックの点とあわせたものを、【初期標準得点系】と呼ぶ。
この初期標準得点系を使って3人でプレイした場合、獲得3枚ごとに1点プラス前述の役物による得点となる。
それはいいのだが、後期のタロットゲームでは、この「3人でプレイした場合」という前提が抜け落ち、
何人で遊ぼうとも「3枚につき1点+役物」という数え方になっているものがままる。これを【常に3枚単位で得点】と呼ぶ。
なお、ディールでトリックやカードから得られる得点と、その得点をもとに決められるゲームの勝利点は異なる。
以降、「得点(またはカードポイント)」と「勝利点」の語は明確に区別される。
その他、多くのゲームでは(花札の八八のような)「手役 declaration」の概念がある。
また、目標を「宣言(announcement)」して達成するとボーナス、失敗すると罰符、という宣言系のゲームもある。

なお、慣習として、上記の初期標準得点系でポイントを数える場合、以下のように行っている
(これを【標準得点系】と呼ぶ。【初期標準得点系】と実質的な差はない)。
いったん役物の点数を上記より1点高いものとして扱う。つまりK=5, Q=4, C=3, J=2, 標準役物切札=5。
そのうえで、トリック(3枚を想定)ごとに、
・得点札が一枚も入っていない=1点
・得点札が一枚だけ入っている=その得点札の得点
・得点札がn枚入っている=得点札の合計マイナス(n-1)点
という形で数える。



【場札(タロン)と捨て札】

手札とは別に通常は1〜6枚の場札(タロン)を伏せて用意しておき、誰か(1人なり複数なり)がこれを手札と交換できる、
とするルールのゲームもある。このとき、交換で捨て札にしてはいけないカードが設定されていることが多い。
特に、最高点のポイントカードが捨て札禁止カードになっていることが多い。
(タロンは「キティ」と言われることもあります。日本のナポレオンとかが、まさにキティ/タロンのあるトリックテイキングですね)



【縮小カードセット】

数字札を抜いて切札含有率を高めることがある。
最も標準的な抜き方は、ソードとバトン(♠♣)のA〜6、カップとデナリ(♡♢)の5-10を抜く方法。
この方法で作ったカードセットを、以降【54枚セット】と呼ぶ。
逆に切札を足すことで切札率を高めるゲームもある。
(枚数少ないカードセットというとスカートをやるドイツ式セットとかが思い浮かびますね)



【ビッド】

タロットゲームのバリエーションは、主にビッドの方式によるもの。
タロットゲームのビッドの概念は、スペインのトリックテイキングゲーム「オンブル」から来ている。
オンブルのビッドはブリッジのビッドと違い、勝利目標(トリック数なりポイント)を競るのではなく、
固定された勝利目標をどの条件下で(場札との交換あり/なし、など)達成するかに関するもの。
(これも割とスカートのイメージ。まあこのへんはタロットに限らない気も)



【ゲームの歴史】

文献からは、タロットゲームは15-16世紀イタリアですでに発展していたらしいのだが、そこに書かれている記述はスケッチ程度のものでしかなく、ルールを起こせるほどではない。現存する最古のルールは16世紀のもの。
1450年の時点で、切札に書かれた絵じたいはどこのものも一緒だったが、強さの順は違っていた。
こういうのとか、絵柄とか、切札の強さが数字で示されているか否かとかを見ると、カードやルールの伝播ルートがわかる。
タロットの場合、ミラノとフェラーラとボローニャの3都市が主要な発信源で…
(以下タロットの中心地の変遷が語られるが省略)
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# by Taiju_SAWADA | 2015-08-12 00:58 | 感想・紹介

ボードゲーム読書会というのをやってます

サイトを一年以上堂々放置してtwitterにしか書き込まなくなっているわけですが、twitter以外なにもやってないかというとそういうわけでもなく、「ボードゲーム読書会」というのを共催でやっています。

http://www.boardgamereaders.com/

英語とか日本語とかで書かれたゲームの本を読んで内容をプレゼンするというシンプルな内容の読書会で、東京は高田馬場で月一回ペースでやっております。読んだものについてはハンドアウトを作ることになってて、ハンドアウトが読書会のたびに(つまり月一ですね)アップロードされております。

このサイトでGarfield et al. "Characteristics of Games" (2012) のレジュメを一部だけ上げたことがありましたが、あんな感じの活動です。


というわけで、わたくしは死んだわけではなく、ウェブ上からいなくなったわけでもなく、twitterでスプラトゥーンのことについてなにか呟くだけのbotになったわけでもないのです。以上よろしくお願いいたします。


# そもそも2014年というとParanoiaの翻訳をやってた時期なので、個人的にはむしろゲーム絡みで忙しかった印象のほうがつよいのですが
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# by Taiju_SAWADA | 2015-08-09 01:22 | サイトについて