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A Gamut of Games / シド・サクソンのゲーム大全に関する宣伝文のようなものその他

今週末12月2~3日に開催されるゲームマーケットで、ニューゲームズオーダー社から、Sid Sackson "A Gamut of Games" の邦訳書「シド・サクソンのゲーム大全」(訳:竹田原裕介)が先行発売されます。一般販売は12月中旬ないし下旬になる予定です。本日はこの本の宣伝にあがりました。なんでこの本の宣伝をしたいのかと申しますと、ちょっとした成り行きにより、わたくし本書の編集というか企画というか、つまり雑用全般に関わっておるのでございます。

原著は1969年に初版が発売された、基本的にはゲームのルール集です。シド・サクソンとゆかいな仲間たちが寄ってたかって作り上げた38作が詰まっております。それだけと言ってしまえばそれだけなんですが、ただそれだけだとサイエンティフィック・アメリカン誌の書評で「ゲームと数学的娯楽、双方の分野の文献における真の画期的事件だ」とまで書かれた理由も(ちなみに書いたのはマーチン・ガードナーです)、米国が誇る国立遊戯博物館 The Strong National Museum of Playの博物館ブログで「(2016年)現在でもなお、学者や重篤なゲームプレイヤーにとってマストハブと見なされている」と記されている理由も分かりません。

38個のゲームの平均的な品質が高い。というのは、まあ間違いないところでしょう。後に1982年1981年(20171205 Typo修正)ドイツ・ゲーム・オブ・ザ・イヤーを獲った「フォーカス」、「Choice」の名で製品化されたダイスゲームのクラシック「ソリティア・ダイス」(例えばクニツィアの「ロストシティ」がこのゲームの影響を受けてないと言ったらどう考えても嘘でしょう)、比類無き多人数パーティゲームとして特に名高い「ハグル」など、いまでも名前が失われていない重要なゲームがいくつも載っています。後世の人間である我々の目から見れば品質の高さも当然と言って良く、何しろ主著者がシド・サクソン、ゆかいな仲間たちというのはアレックス・ランドルフにジェームズ・ダニガンに…、と、つまりここにいるのは商業ホビーゲームというものを成立させた人々そのものなわけですから。

そして商業ホビーゲームというものが確立した後の世界で遊ぶ我々にとって、この本が重要なものである更に大きな理由がそこにあります。この本には、そうしたゲームの世界がどのような雰囲気の中でつくられたのか、その空気が保存されているんです。A Gamut of Gamesはルール集としては独特な構成が取られており、どのルールについても、最初に1~2頁程度、「ポーカーって最近ラミーに押されてあまり流行ってないよね」「結婚旅行でヨーロッパ行ったんだけど、ゲーム屋ばっか巡っててさあ」「モノポリーには実際のところ先行作で《地主ゲーム》というのがあってね」みたいな枕が挟まれています。この枕の記述から、ここに載った重要なゲームが何を源流として作られているのか、当時の世の中でゲームというのはどういうものだったのか、諸々を知ることができるのですが、特筆すべきはゲスト作者を紹介する際のサクソンの文章です。商業ホビーゲームはコミュニティをベースとして成立した文化である、というのは他のいくつかの本の記述からも分かることですが(例えば「Playing at the World」「Eurogames」など)、この人はこういうバックグラウンドを持っている人で、こういう形でゲーム仲間として関わってて、と書くサクソンの記述から、この文化の、とりわけ後にドイツゲーム/ユーロゲームまで繋がった部分を担ったコミュニティの内実がどのようなものであったのかが窺うことができるわけです。
加えて、巻末付録に添えられている「1969年/1982年時点で発売中の主要なゲーム各々に対する、シド・サクソンの一言紹介」は、当時のゲーム出版状況を知る上で、これ単体でもちょっとしたものでしょう。また、1982年版と1992年版の序文(どちらも訳出されています)に書かれた仲間達の消息、そしてその序文を「1982年は私が考えるシリアスなゲームの黄金期が終わりを告げた年だった」と締める彼のビターな筆致から、あらゆるコミュニティとあらゆる文化に訪れるであろう結末を思うこともできるかもしれません。

今回の日本語版は、そのユーロゲームまで繋がる流れの起点である3Mブックシェルフシリーズを意識した、函入ハードカバー装となっています(アイデアはタチキタプリントの西山昭憲、実装と函表イラストはNGO社インハウスのデザイナーである西村優子)。装丁にコストを突っ込み過ぎたせいもあり、お値段が4630円+税と少々張るものになっておりますが、そのぶん手元に置いておきたいだけの官能性を持ったものに仕上がっていますので、ご興味のある方は是非お手にとっていただければと思います。

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ここからは宣伝とは全く関係の無い、ちょっとした成り行きの話を。

わたくしにとっては、この企画のそもそもの始まりは2014年初まで遡ります。当時のわたくしは「パラノイア【トラブルシューターズ】」の翻訳権がほぼ取れるだろうことが内定したというくらいの状況で、毎日会社から帰っては翻訳を進めつつ、ついったなどで「翻訳を進めてる本があって、もうすぐ発表できます」みたいな事を述べたりしておりました。そうすると2月の11日、Boardgamegeek の geekmail に竹田原裕介さんという方からのメールがあり、その中身は「その翻訳を進めてる本というのはSid Sackson "A Gamut of Games"だったりしますか?」という内容のものでした。この時点で既に竹田原さんは全文の翻訳の初稿を個人的に上げていて、「翻訳がバッティングしていたらどうしようか」という趣旨からの問い合わせだったんですね。で、そのときは、いや今こっちで翻訳してるのはRPGなんでバッティングはしてないです、A Gamut of Gamesの翻訳なら俺は読みたいし仮に電子書籍で出すなら5000円くらいの値付けであれば高いとは思わないですよ、くらいのことを返しただけでおしまいだったんですが、そこから1年半くらい経って、そういえばあの話どうなったんだろう、版権交渉が難航してるなら十年留保使って出しちゃってもいいんではないすか、みたいな気持ちでメールを出してみたところ、「図版を色々載せたいので(十年留保は図版には適用されません)やっぱり出版社と交渉しようかと」との返信をいただき、交渉ごとで何か面倒があったらご連絡もらえればサポートしますよー、と返して、これもここでおしまいになりました。

それから数ヶ月。竹田原さんから再びご連絡をいただいたのは2016年の3月末でした。ええと、そのー、何か面倒があったわけですね。子細は省きますが、トラブルということでは全くなく、単純に果てしなく、やってらんないくらい面倒なプロセスがあったんです。それで、(BGGを見ていなかったのでだいぶ返信が遅れてしまったんですが)ああ、これはサポートしたほうがいいですね、差し支えなければこちらで出版する形をとりましょうか、ということで、企画がわたくしの手持ちになったのが6月のこと。ニューゲームズオーダー社に企画持ってったらファンディングしてもらえることになったので、じゃあ版権交渉を片付けましょうか、と先方(Dover社)に連絡をして……連絡をして……連絡をして……

気がつくと町にはトナカイとシュトーレンが溢れていたのです。途中で向こうの担当者が会社辞めたおかげで一時期は完全な連絡不能状態になったり、まあ思い出したくもない様々な形態の待ちぼうけがあったのですが、最終的にはこちらのうざいプッシュの束に折れた向こうが翻訳エージェント(日本ユニエージェンシー)を立ててくれたおかげで話がスムーズにまとまるようになり、ようやく契約に漕ぎ着けました。

何しろ原稿は2014年2月の段階で初稿が上がっているわけですから、そちらのほうは(わたくしとInDesign CCの素晴らしい連携により、修正したはずのレイアウトずれが三倍になって返ってくるなどの諸々の失態を重ねながらも)順調に進み、装丁の方もハードカバー版を出したいという竹田原さんのご希望(原著も今はペーパーバックですが初版はハードカバーだったんです)に沿って愛蔵版のハードカバーと普及版の電子書籍と……みたいなプランで進めていたところ、契約に盛り込まれていたはずの電子書籍出版の権利が諸事情によりキャンセルにされて我々とエージェントの方が一緒にうんざりする事態が発生し、急遽実施されたニウゲームズオーダー井戸端会議、そんならもう仕方ないから凝るだけ凝った装丁の函装上製本一本で行こうぜという結論になり、函入ハードカバーのコストの高さと納期の長さに戦きつつもなんとか昨日11月28日に刷り上がったわけでございます。間に合った!

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最後に。図版はDover版と同様、シド・サクソン自身の手書きをスキャンしたものを用いています。製作側としては、印刷に耐えるクオリティのものにならないかもしれないという心配があり、当初はAdobe Illustratorで描き直す方向で考えていたのですが、やはり上記のようなこの本の特性を鑑みてハンドドローイングを用いるべき、という竹田原さんのご意向を受け、元の版と同じものに戻しました。どれくらいのクオリティで出来てくるものか100%の確信が持てず、刷り上がった本の頁を開くのはちょっとしたスリルでしたが……これならOKだと思います印刷屋さんありがとう! というわけで楽しんでね!

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by Taiju_SAWADA | 2017-11-29 23:58 | 感想・紹介