えー、唐突ですが、ちょっと軽く「魔法にかかったみたい(Wie verhext! by A.Pelikan / Alea 2008)」と「ブルームサービス (broom Service by A.Pelikan and A.Pfister / Alea 2015)」の比較をやってみたいと思います。周知のごとく(というのは「こんなサイトを見ている人にとっては」という意味で、何かの拍子で開いてみただけの人には当てはまりません)「ブルームサービス」は「魔法にかかったみたい」の後継作で、「魔法にかかったみたい」が採用していた独創的なシステムをほぼそのまま引き継いで別のゲームを作っているわけですが、その別のゲームの載せ方がどうにもよろしくないように思えるわけです。ということで、魔法にかかったみたいがどんなゲームだったか、ブルームサービスはどんなゲームか、何が引き継がれていて何が落ちているのか、何を付け加えようとしたのか、というようなことをざっと見ていきたいなと。
まずは「魔法にかかったみたい (Wie verhext!)」のおさらいから。 何種類かあるリソースを集め、そのリソースを払って勝利点アイテムを早い者勝ちで購入するゲームです。 リソースを集めるアクション、変換するアクション、リソースを払って勝利点アイテムを購入するアクション、特殊アクションが全てカードの形で表現されており、各ラウンド開始時に各プレイヤーとも秘密裏に、全部で12種類あるアクションカードから5枚だけ選び、これを手札に持ってラウンド開始。 スタートプレイヤーが手札から1枚選んで出し、そのアクションを実行したい旨を告げます。1枚のカードには「リスキーな強いアクション」と「確実な弱いアクション」の2つが書かれているのですが、スタートプレイヤーは必ず「リスキーな強いアクション」を行いたいと宣言しなければいけません。そうしたら、スタートプレイヤーは他のプレイヤーに対して時計回りに順々に、同じカードを持っているか聞いていきます。同じカードを持っているプレイヤーは直ちにこれを出し、そのカードのリスキーな強いアクションを行いたいと宣言するか、確実な弱いアクションを今すぐ実行するか、選びます。全員に聞き終わったら、最後に「リスキーな強いアクションを行う」と宣言したプレイヤー(だけ)が、これを実行し、次のスタートプレイヤーになります。 全員の手札が無くなったらラウンド終了、また手札を選びなおして新しいラウンドを始めます。一定数の勝利点アイテムが売り切れたらゲーム終了、勝利点の一番多い人の勝ち。 さて、もちろんこれはバッティングに関するゲームです。12枚の中から選んだ5枚のアクション、他の誰とも被りがなければノーリスクで強い方のアクションが選べる一方、誰かと被ったら、その中で強いアクションを行えるのは一人だけ、またリスキーな賭に出て失敗すれば何もできないのであって、「基本的には」被らないアクションを選びたいということになります。なりますが、「基本的には」という留保が必要になる理由もあります。というのは、普通のバッティングゲーム(全員が一斉に数字カードを出しあうやつ)では勝負を一旦降りようと思えば楽に降りられるのが常ですが、このゲームでは選んだカードは同じタイミングで出さないといけないので、5人でプレイしている限り、バッティング自体からはそう逃れられない。そしてもう一つ、自分が最後の一人になれるのであれば、むしろバッティングは好ましいことだと言えます。他のプレイヤーは一回分の「強いアクション」を取る権利を無駄にして、自分は強いアクションを実施できるわけですから。ということで、プレイヤーが気にしなければならないのは「他の誰かが同じカードを選んでいないか(普通のこの手のゲームなら、それに加えて他の誰かがこちらを出し抜くカードを選んでいないか)」ではなく、「【誰が】同じカードを選んでいそうか」だということになります。「誰かが」ではなく「誰が」。この段階で既に、チャレンジの内容がひとつ具体的になっています。 リスキーな強いアクションを宣言して成功したら、次の一巡ではスタートプレイヤーになります。スタートプレイヤーは強制的にリスキーな強いアクションを選ばされ、そして後ろにはプレイヤーがいっぱい控えていますから、普通に考えればかなり高い確率で失敗します。ただし、後ろのプレイヤーが一人もリスキーなほうを選ばないということは充分にあり得るので、推理が正確にできているのであれば、無謀な賭けというほどではありません。つまり、このラウンドで成功しようと思ったら方法は2つあり、成功が必須ではないようなアクションをうまく織り交ぜて無理のない計画を作ること、そしてもう一つは他プレイヤーの手札と計画を推理したうえでのギャンブルです。条件がフラットであればもちろん無理のない計画を立てるべきですが、これはバッティングゲームである以上無理のない計画は100%の安全を全く意味しないので、計画の狂い方に応じて適宜軌道修正が必要になります。そして差が開いている場合にはギャンブルが必須になり、このギャンブルの成否は推理の精度に大きく左右されます。 推理です。実のところこのゲームは、バッティングゲームではありつつも、いわゆる心理戦のゲームではあまりありません。心理戦というのは「相手がいま何をしようとしているか」に基づく遊びであって、「相手がいま何をしたか」になると心理戦度合いが一段階下がります。そしてこれが「相手がちょっと前に何をしたか」になり、そしてそのちょっと前から現在までの間に手がかりとなるようなヒントがいくつも落ちているとなると、心理戦というよりは推理といったほうが相応しいでしょう。もちろん、徹底してデータとロジックで進んでいくいわゆる推理ゲームではありませんし、またこのゲームでもほとんどノーヒントで2択のギャンブルが発生するような場面もあり(ラウンド第一巡のラス前手番、重要なカードでリスキーアクションか安全牌か選ぶような状況など)、このような場面で行われていることは心理戦に近いとは言えます。 このゲームが心理戦のゲームではないにも関わらず、それでもプレイ感覚としては依然としてある種の心理戦のように思える理由は、プレイの流れが心理戦のそれと似ていること、それによって心の動き方が心理戦のそれに似たものになるためでしょう。アクションを選ぶ→そのアクションの成功を祈る→残酷な結果が明らかにされる。この流れがとても短いスパンで次々にやってくることによる眩暈が、典型的な心理戦のゲームと似ているんです。(関係ない話ですが、この面では「髑髏と薔薇」もこれに近いことをやっています) 心理戦のもっとも重要なポイントであるところの眩暈を押さえつつ、心理戦にありがちな計画性の欠如からは逃れており、ミクロな個々の局面では一定の根拠に基づく推理(と時にアクセントとしてのギャンブル)、中距離では1〜2ラウンド単位での行動計画策定という、丁度良い具合に考えさせてくれる内容を持っており、しかしそれは静的な戦略研究への要請には繋がらない。「魔法にかかったみたい」は、とりあえずそういうゲームです。 それでは「ブルームサービス」はどういうゲームなのか。 これは土地を移動しながら、各地でリソースを捧げることで勝利点を獲得するゲームです。 基本システムは「魔法にかかったみたい」と同様ですが、アクションの種類が概ね「移動」「リソース取得」「勝利点の獲得」の三種類となります。移動の存在が主要な差異ですね。土地のそれぞれには色がついており、「隣接する黄色の土地に行く」アクション、というようなものが(色ごとに1枚ずつ合計4枚)用意されています。 この移動のシステムが、ブルームサービスを元の作品と大きく違うものにしている原因です。「魔法にかかったみたい」では、得点の高いアイテムは必要なリソースの量が多く、また得点の低いアイテムが取られた後でしか出てこない、ということになっていました。ブルームサービスでは、得られる勝利点にかかわらず、捧げるべきリソースの量は1個で固定です(微妙な例外がありますが、これは本当に例外なので、説明を省きます)。その代わり、得点の高い土地(アイテムの捧げ先)はスタート地点から遠い所にあり、大量の回数の移動を成功させないと届きません。 つまり、ともかく大量の移動アクションを成功させないといけないということになります。なるんですが、ここで問題になるのが移動先の色のルールです。例えば2歩先の緑の土地に行きたいとなったら、まず最初に「隣接する黄色の土地に行く」続いて「隣接する緑の土地に行く」を成功させないといけません。順番はとても重要です。逆に出したら一歩も動けません。普通のゲームなら逆に出すなどということは有り得ませんが、このゲームは「魔法にかかったみたい」と同じシステムを採用していますから、スタートプレイヤーが「緑の土地に行く」を先に出してしまったら、もう遠出できないことはそれで確定です。さらに言えば、ここは元のゲームと異なるところで、ブルームサービスではスタートプレイヤーも「確実な弱いアクションを今すぐ実行」を選択でき、そして弱いアクションでも移動はノーペナルティでできるので、端的に言えばブルームサービスは「誰かがスタートプレイヤーとしてこちらに不都合なカードを出してくる前に、スタートプレイヤーの権利を確保して弱いアクションで確実に移動する」ゲームだということになります。 この目的のもとでは、最初のカード選択は、「キーになる移動カードを選ぶ(2歩移動するリスクを犯すか否かの意思決定があります)」「スタートプレイヤーの権利を確保するために、誰かとバッティングしそうなカードを選ぶ(リソース補充などのアクションが行えればなお可)」という基準で行うことになります。さらに言えば、スタートプレイヤーの権利を確保するためのバッティング用カードは、自分が2番手であるような巡目でヒットしてもあまり意味がなく、理想的にはラス番で回ってきてほしいわけですが、ここをうまく制御することは極めて難しく、自分が第一巡のラス番だというのでないかぎり、かなり運任せに近くなります。2番手または3番手であるような巡目でそのようなバッティング用カードがヒットした場合、これはリソースではなくスタートプレイヤーを取りに行っている以上、リスキーな強いアクションを宣言する以外の選択肢が無いので、後ろを推理してどうこう、という事もありません。もう少し仔細がありますが、要はブルームサービスでは、リスキーな強いアクションを選ぶべき時と弱いアクションを確実に実施すべき時の差が極めて明確で、相手の手札次第で行動を変えるべき局面がとても少ないので、ブルームサービスには存在していた推論のミクロな遊びは丸ごと失われることになります。 これは移動をメインにした、ある種ピック&デリバーの亜種とも言えるゲームであるわけですから、失われたミクロな推理を補うためにルート選択における優劣が存在すべきなんですが、このゲームの基本マップでは、まず目指すべきルートと保険としてとっておくべきルートの選択肢がこれもまたあまりにも明確で、違いといえば保険をどれくらい大きく載せておくかしかありません(※)。 (※)上級マップでは、この意味での遊びどころがいくらかはあります。上級といっても面倒なルールがそれほど大きく増えるわけではありませんので、ブルームサービスをこれから遊ばれるという方には、最初から上級マップで遊ぶことを強くお勧めします。ただ、遊びどころがあるとはいっても、何しろ流れに大きく振り回されるゲームだということは予め了解しておくべきでしょう。流れに振り回されたまま、もう逆転は不可能になっていた、みたいなことは基本マップ・上級マップを問わず、よくあります。どうせ流れに振り回されるなら最終ラウンドでの大逆転みたいな線も一応用意しておいてくれよ、と思うのは人情ですが、ブルームサービスはラウンドごとの地道な移動を何回成功させたかで勝敗が決まるゲームなので、そういう機能は用意されていません。マクロレベルでの優劣を問わない「魔法にかかったみたい」では、最終ラウンドに大きい勝利点アイテムを立て続けに攫って大逆転、ということを可能にするための諸々も準備されていたのですが。 ラウンドごとに計画を行う楽しさは(計画の内容が大きく異なるとはいえ)引き継がれていますし、それは充分に楽しいことではありますから、少なくとも上級マップで遊んでいる限り、単体で見て全く評価できないゲーム、ということは無いでしょう。しかしやはり、元のゲームと較べてしまうと、噛みあわせが悪いルールの上に載せ替えたせいで、本来このシステムが持っていたはずの独創性がスポイルされ(何せカードを出した後にリスクを取るか取らないか悩む時間が殆ど無いわけですよ)、あまり移動できない変な移動ゲーム、というところに落ち着いてしまっています。元のゲームに比べてあまりプレイヤーに多くを要求してこず気楽に遊べる、というメリットは一応見いだせますが、しかしゼロ年代を代表する名カードゲームを押しのけてまで出す必要があったゲームなのか、正直に申し上げて憤りに近いものを感じております。 # 近々出版が予定されているというブルームサービス・カードゲームが魔法にかかったみたいの完全な復刻なのであれば、とりあえず水に流すことはできますが、どうなんでしょうね
by Taiju_SAWADA
| 2016-03-03 23:50
| うわごと
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