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「である」のではなく「になる」こと

前にも触れた疑心暗鬼がまた一人という話題なんですけど、とりあえずゲームマスター云々は措くとすると、この話で大事なのは「最初はプレイヤーは別に疑心暗鬼に陥っていない」ということです。ゲームを進めていくうちに非疑心暗鬼状態から疑心暗鬼状態に移行する、というのでないといけない。スタートから既に疑心暗鬼状態、というゲームはそれこそ前回で例に挙げた「キャメロットを覆う影」を筆頭にしていくらでもあります。というかテーマ(裏切りがどうのこうの)を外して構造だけ見れば、これはディプロマシーの例を挙げるまでもなく、使用される頻度から言っても重要性から言ってもボードゲームの基本要素なのでして。

あー、とはいえキャメロットと「ディプロマシー」(をはじめとする疑心暗鬼モノの大多数を占めるゲーム)とではこれまた基本構造がだいぶ違いますね。キャメロット式はディプロマシー式に比べればごく少数派でしょう。ディプロマシー式の裏切りつき交渉の場合、これはそもそも全ての同盟が終わりある仮初のものという大前提が敷かれているので、疑心暗鬼の内実は例えば「(俺が抜け駆けするより先に)相手に抜け駆けされるかも」みたいな、たいへんドライなものであって、実際言葉にしてみるとこれは疑心暗鬼とはちょっと違うような気さえしてくるものです。この殺伐とした安心感はどこから生じるのかといえば、目の前にいる相手プレイヤーの立場が「最終的には倒すべき敵である」と固定されていることに拠っています。

これに対してキャメロット式の場合、不安の内容は「このなかに裏切り者がいる(かもしれない)」という形で説明できます。こっちから見えないだけで相手の立場は最初から敵だったり味方だったりで、その関係性は最後まで変わらないわけです、が、それでもこっちからはわかりません。相手の立場がどっちなのかによって、こちらが取るべき対応は変わってきます。味方だとすれば最後まで突き放すことなくフォローしてサポートして助け合わないといけないのですが、敵の場合は今すぐにでも喉元に剣を突きつけてやる必要があります。相手が誰だろうととりあえず抜け駆けを考えておけばよかったディプロマシー式にくらべて、相手の本質に対する不安という上位の疑心暗鬼が存在しているのです。

つまり。ディプロマシー式では、相手プレイヤーは敵でした。この構造は安心です。キャメロット式では、相手プレイヤーは敵か味方かどっちかですが、こちらからは解りませんでした。この構造はちょっと不安です。

ここまでくれば何を言いたいのかは自動的にお分かりいただけると思うのですが、それでもキャメロット式のゲームは、相手が敵か味方かという関係性は最初から最後まで第三者視点では固定されています。あくまで自分から見てどっちか解らないというだけで、全体を眺めれば「敵と味方にわかれて勝敗を争う」というオーソドックスな構造には変わりありません。実際のところキャメロット自体には「敵が0人かもしれない」という素敵な捻りが入っており、このおかげで全体が「敵味方式のオーソドックスなゲーム」か「全員協力ゲーム」のいずれかなんだけど(裏切り者以外の)プレイヤーからは見えない、ということになっていて不安度は上がっているのですけども、第三者視点でどっちかに固定、という点では一緒です。

そこを変えるってのが面白いんじゃないの? というのがRPG式の愉快なところなのです。ゲームスタート時点では全員が間違いなく味方ということが保証されている(ということは本当は必須要件じゃないですけど)、でもゲームが進むにつれて何故か誰かが敵に化けてしまうかもしれない。不可抗力か自らの意思かは不明ながら、相手が自分の把握しているのとは違う存在に移り変わっている可能性を考えなければいけない。自分と相手との関係は主観視点のみならず第三者から見ても不安定で、従ってゲーム全体の構造のほうも同じくどこから眺めてたところで最後まで固定されません。不安と不安定を同じものと見る先ほどまでの例えで言うなら、この構造はえらいこと不安を掻き立てます。

ある時期以降、RPGは「関係についてのゲーム」としての側面を強めていきました。元々は「ゲームマスターと複数のプレイヤーが会話によって即興とシナリオとの間を通り抜けていくようにゲームを進めていく」という独自の形式によって自然発生的に出てきた効果なのだと思いますが、一部のRPGではこの要素について極めて自覚的なルールデザインが行われています。そして前回からの繰り返しになりますが、この構造自体ははRPG形式でなくても導入できるのですから、そういうボードゲームが存在してもいいんじゃないか。とりあえずそういうゲームがたくさん出てきてくれると、私はとても嬉しいわけです。
by Taiju_SAWADA | 2006-04-10 01:48 | うわごと
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