そんなにエキセントリックじゃないんだけど決してマジョリティにはなれないゲーム形式として、「負け犬決定戦」というものがあります。というものが、というか当然のように皆様ご存知かと思うのですが、ジェンガだったりピラニアペドロだったり、敗者が一人だけ決まるゲームです。この形式を採用しているゲームはその他の部分でも割と似通っていて、たとえば判で押したように軽量級だったり、失点を積み重ねて最初に一定値に到達したプレイヤーを敗者とする形になっていたり。要は誰もあんまりまじめに考えてなくて「あーゆーパーティゲームにしよう」「じゃ負け犬で」てな勢いで決めてしまっているんじゃないかという気がするのですが、なんかこれは勿体なくないですかね、というのが今回のテーマです。
そもそも何で重いゲームにこの形式が採用されないかというと、最初に思いつくのは勝てないので詰まらないんじゃないかということですが(2006/5/24追記:ここで言う「勝てない」というのは、単に負け犬にならなかっただけで「勝ち」の爽快感を得るのは無理だろう、という意味で、この直後に出てくる「ひとり以外全員勝ち」というのと一見矛盾したことを言ってるようにみえますが、実際のところこれは矛盾というよりはむしろ同じことを二回くりかえして言ってるだけです)、別にこれは重い軽い関係ないだろという感もあり。次に出てきそうなのは負けるとショックが大きいからという理由で、これが実際のところ大きいんじゃないかと。普通のマルチプレイヤーズゲームでは勝つの一人だけで、四人とか五人とかで遊んでればまあ基本負けるわけです。勝てないということはそんなにきついことではない。一方で世の中の真剣勝負なゲームにおけるマジョリティは一対一で、この場合勝つか負けるか五分と五分。これはこれで非情な感じが大変よろしい。さて我らが負け犬決定戦はといいますと、これは五人いて一人しか負けない訳ですから勝って当たり前。勝つことには何のカタルシスもなく、そして負ける奴は余程の馬鹿の不名誉ゲット。じっつに厭ぁなテーストであって、まあ負けても洒落で済ませられるようにするんであれば余計な十字架を背負わなくていいようなふわふわしたゲームにしか採用できないよね、というのは商業的には正しい判断と言えるでしょう。 ところで人生とはそういうもんじゃなかったか。 せっかくなんで大きく張ってみましたけど別にここから説教になだれ込んでみたりはしません。そうではなく、ここでしたいのはシミュレーションの話なんです。ゲームの制作意図の少なくとも一部が現実における何らかの現象(あるいは「システム」と言ってもいいでしょうが)の模倣にある、というのは極々よくあることですが、少なからぬ場合においてその模倣対象は「勝者一人」という形を取っていません。典型例としては商売ネタなんかがこれで、だいたい会社なんてものは普通ゴーイングコンサーンがどうとか持続的成長が云々でありとあらゆるリスクをヘッジしながら一歩一歩踏み固めるもので、「ゲーム終了時点で一番儲けたプレイヤーの勝ち」などという湧いた発想をする経営者からは可能な限りの距離を取るべきでしょう。 こういう地味で堅実な安定志向を通常の一人勝ちゲームで表現するのはなかなか大変だったりします。つうのはつまり、安定志向じゃそもそも勝てないんですな。そりゃリスク取らないんですから五人中三番にはなれても一番にはそうそうなれない。勝つためにはどうすりゃいいかといえば、巧拙を抜きにして考えればとにかく大量のリスクを抱え込んでボラティリティに賭けるというのが正しく(以前にも触れましたが、常にトップラス戦略がボードゲームプレイヤー唯一の王道なわけです)、そして真っ当なビジネスをテーマとしていたはずのあらゆるゲームが気がつくと山師シミュレータに化けてて何の真似か。 別に面白ければ山師シミュレータでも構わないは構わないのですが、あくまで堅気な商売のゲームをつくろうというんであれば、本来は当然のように負け犬形式を選択しないといけません。全人格の否定を迫られるプレッシャーと戦いながら余計な誘惑には目もくれずにどうしても取らないといけないリスクだけを選び抜くことを要求される、この冷たい厳しさこそがビジネスというものでしょう。無論このようなゲームにふわふわとした軽さによる誤摩化しは不要。露骨に実力がものを言う(ように錯覚できる)ような重厚なシステムを備えてこそ、対象を正しく模倣できたことになります。 とはいえやっぱりこういうカタルシスと無縁のゲームを売りに出すのは難しく、嘘八百と解ってはいても山師ビジネスゲームに仕上げてしまうのはこれはもう仕方ないことではあります(そもそも別に嘘八百が悪いわけじゃ全然ないし)。ですのでここはひとつ、既存のビジネスゲームを負け犬ルールで遊んでみるというのはいかがでしょう。単に順位の解釈を変えるだけですから、ゲームシステムに影響が及ぶことはありません。手順の巧拙が支配的なゲームではあんまり色が変わらず単につまらなくなるだけでしょうが(2006/5/31追記:むしろ駄目度の高さで言えば個人叩きができるゲームが全く駄目であってメジャーな形式になれない原因はこれが一番大きいですという話で終わってしまうかもです)、リスクテイキングを主要素としているようなゲームであれば、今までとは大きく異なるプレー感覚が楽しめるんじゃないでしょうか。
by Taiju_SAWADA
| 2006-05-23 23:59
| うわごと
|
カテゴリ
このサイトの内容のうち、わたくしに著作権が帰属する部分については、明示されていない限り、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス【CC BY-ND 4.0】が適用されるものとします。
※トラックバック送信元記事にこのweblogへのリンクが存在しない場合はトラックバックを受け付けません。ただし、エキサイトブログ同士のトラックバックには適用されません。 以前の記事
2022年 11月 2021年 11月 2021年 10月 2020年 10月 2020年 07月 2020年 04月 2019年 09月 2017年 11月 2017年 09月 2017年 08月 2016年 12月 2016年 09月 2016年 04月 2016年 03月 2015年 12月 2015年 09月 2015年 08月 2014年 04月 2013年 11月 2013年 05月 2013年 03月 2013年 02月 2012年 12月 2012年 10月 2012年 08月 2012年 06月 2011年 11月 2011年 10月 2011年 08月 2011年 03月 2011年 02月 2011年 01月 2010年 08月 2010年 06月 2010年 04月 2010年 03月 2010年 02月 2010年 01月 2009年 12月 2009年 08月 2009年 06月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 09月 2008年 07月 2008年 06月 2008年 05月 2008年 04月 2008年 03月 2008年 02月 2008年 01月 2007年 09月 2007年 03月 2007年 02月 2006年 10月 2006年 09月 2006年 08月 2006年 07月 2006年 06月 2006年 05月 2006年 04月 2006年 03月 2006年 02月 2006年 01月 2005年 12月 2005年 11月 2005年 10月 2005年 09月 2005年 08月 2005年 07月 2005年 06月 2005年 05月 2005年 04月 2005年 03月 2005年 02月 2005年 01月 2004年 12月 2004年 11月 2004年 10月 2004年 09月 2004年 08月 2004年 07月 2004年 06月 その他のジャンル
|
ファン申請 |
||