今更テーベの東というゲームをやって微妙な気分になったりしたわけですが、あのー、偶にこういう、最後に乱数を持ってきて台無しにしてみました、というようなゲームってありますよね。思いつくのがDorraの「Linie 1」とか。Linie 1は相当露骨かつ唐突にそういうことをしていて、対してテーベではもう少しゲームに組み込んだ形になっていてテーマにも沿ったものになってるという違いはあるにしても、「結局乱数なんですか?」という意味では一緒。ただテーベの台無し感は、 Linie 1 とか Moon の Andromeda とかに比べても際だっていて、こういう台無し感というのは何なんだろうと。
不思議なのは、何でこういう構成にしたんだろうということで、というのは決して「台無しになっちゃいました」じゃなくて「台無しにしてみました」なんです。デザインの中でここだけ浮いているということはつまり、構成力の限界によってこうなってしまったんではなく、入れたくて入れているということです。外したって何の問題もなく成立するんだから。どんだけ浮くと解っていても入れたいという風にしか考えられません。 テーマ上の必要というのは当然あります。テーベは石油掘り(いや遺跡だけど)テーマのゲームなんで、マネジメントの巧拙が必ずしも成功と関連するものではない、それでもマネジメントはちゃんとやるんだ、みたいな。Linie 1で言えば、とにかく何でも良いから俺はトラムを走らせたかったんだ文句あるかと。その表現として行っているという解釈は普通にあるんだけど(Linie 1に関してはその気持ち自体はちょっと解るんだけど)、でもそのテーマをファミリーストラテジーという枠で、それもこの形で表現できるかについては、相当な疑念があります。Linie 1については、ああいう形で提示されると突然双六が始まったとしか言いようがないし、テーベについては2時間の枠内で語らないといけないゲームであるという前提を無視している。緻密なマネジメントというのは会社が長期の存在であるってことが前提であって、2時間の枠内で成功か失敗か決定されるような博打世界なら、緻密なマネジメントなんか全然要らない。 他に何が考えられるかというと、勝敗をぼかすという効果を狙っているという線。巧拙の部分は石油を何回掘りに行けるかで本当は終わっていて、それを勝利点換算すればいいようなもんだとしても、それだと換算の方法を決めるのが難しかったり、もっと根源的には、それで勝敗を出してしまうということ自体にゲーマーの腐臭を感じて抵抗感があり、それでこういうヴェールを一枚噛ませてみたんだ、という意図ですね。サイコロが良かったから勝ったんだ、みたいな逃げが効くような形にしておきたいと。まずは商業的な要請として存在するんだと思いますが、ゲームというのはよく解らない対象の中を模索していくものなんだ、という捉え方を念頭に置けば、デザイナー自体の欲望としても有り得る話です。とはいえヴェールを一枚噛ませることとゲームを解らなくするということは全然違っていて、ヴェールを噛ませて解らなくなるのは単に結果としての勝敗だけであって、ゲームの構造自体は別に解らなくならない、というかむしろ逆効果を生み出しかねません。お馴染みの「結局運げー」です。 いや、それでいいんだよ、むしろそれがいいんだよ、という言い方もあります。競争することだけがゲームの楽しみではなく、むしろシステムは博打、テーマとして模倣、という組み合わせによって楽しみを表現することの方がある意味ではよほど正統なのであって、つまりヴェールを噛ませるのは競争的な部分の複雑性を上げたいということではなくて、ゲームとしての形を整えるために競争を持ち出しただけであってむしろ本当は鬱陶しいからヴェールで何も見えなくしておきたいんだ、運げーにしておきたいんだ、と。実際 Linie 1 はそういう解釈が通るゲームですし、Andromeda も一応そういうことにしておけます。もっと複雑なゲームにだって、「これはゲーマーのための癒しゲーなんだよ」という主張は可能です。 テーベの東というゲームの奇妙なところは、そういう解釈をきっぱりと拒絶している点にあります。そういう解釈が可能であるためには、全体的なテイストを運げーにしておくか、そうでなければ少なくとも競争性の部分は手癖でつくり、独創をサイコロ周りに集中させておかなければならない( Andromeda を出したのはそういう意味です)。ところがこのゲームでは、わざわざ時間経過のシステムを発明してまでマネジメントの面白さを強調しています。普通はこの時間経過システムでゲームを一本つくる筈ですし、実際このゲームもその台無しになるたった一点を除いては、普通に面白いゲームとして組み立てています。だからこそ、このあらゆる解釈を拒む謎のくじ引き袋が何だかやたらと気になるわけです。ほんと何なんでしょうねこれ?
by Taiju_SAWADA
| 2007-09-02 17:59
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